前島賢 『セカイ系とは何か』

エヴァ以降のゼロ年代くらいまでを「セカイ系」という言葉を通して概観する本。確かにこの言葉が流行ってたのって俺が中高生ぐらいの頃で、なんか偉そうなこと言いたい時に、意図された省略も読み取れずに「セカイ系(笑)」とか言ってた自分の浅はかさが思い…

三田誠,虚淵玄,奈須きのこ,紅玉いづき,しまどりる,成田良悟, 小太刀右京 『レッドドラゴン 6上』

最終決戦のお膳立てという感じで、それぞれの登場人物毎の勝利条件の確認なんかがメインで、動きとしては(このシリーズにしては)わりと穏便。エィハを揺さぶってくれると、その芯の頑なさが更に際立つので紅玉いづき好きの僕としては嬉しいですね……!RPF レ…

大石慎三郎 『江戸時代』

漠然と「江戸時代」と銘打っているんだけれど、章ごとに雑多なエピソードを取り扱っていて、しかもそれがなんか豆知識的に面白い問いの立て方をしているわけでもない。でもなんか、「江戸時代は治水工事が多く進められて、結果農地は3倍になったんだ」とか、…

バルザック 『ゴリオ爺さん』

19世紀のパリ社交界などを書き表すのに、色んな小説で共通の人物を登場させる「人間喜劇」という手法をとったバルザックの、その「人間喜劇」を始めた1冊。まあ岩波のちゃんとした注釈でその辺は「この人は『〜』という作品でこんな過去が語られており〜」と…

『ハッキヨイ! せきトリくん わくわく大相撲ガイド』

日本相撲協会が監修している、大相撲を全然知らない人のためのフルカラーガイドブック。横綱や大関のインタビュー集や、行司、呼出、床山さんらの仕事の様子、相撲部屋の1日など、まあ初心者が気になる辺りをちゃんと説明していて、まあ写真も満載の辺り、相…

マクニール 『世界史』

評判のいい世界史の本。ともすると固有名詞の羅列を覚えるだけの科目となりがちな世界史を、1人の著者が通して書く、しかも全体の流れを意識しながら、そして1つ1つの出来事には短くとも原因と結果とその余波を書き添えることで、きちんと説明する本になって…

下條信輔 『サブリミナル・マインド』

東大でやってた教養の授業をまとめた、20年くらい前の、認知的不協和などを題材にした本。自分の感情、好き嫌い、そしてそれに基づく自由な行動決定、という当たり前の行動プロセスを覆すように、感情や好き嫌いが外部的な要因とかでたやすくねじ曲げられて…

フィリップ・K・ディック 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

そのタイトルでも、あるいは『ブレードランナー』の原作としても超有名なSF。SFとして使われてるギミックは、感情操作器械とかアンドロイドとか惑星移住とか、SFにありがちなものなんだけど、それを組み合わせて1つの世界を作り上げる力と、さらにその世界の…

浅田次郎 『勇気凛凛ルリの色』

作家が週刊誌に連載していた、軽めのエッセイ集。あんまり売れてなかった頃から、それが数年で『鉄道員』で直木賞を獲るくらいまで。作家だけあって、日常の出来事を脚色して書いたり、あとは当時にあった殺人事件なんかの、被害者や犯人のその瞬間の心情を…

ジョセフ・メン 『サイバー・クライム』

ちょっと昔、クラッカーのやり方が「トロイを忍ばせてbotとして操り、企業サイトへのDOSアタックに使って脅迫する」だった頃(今は個人情報をそのまま盗んじゃうよね)の、インターネット犯罪のドキュメンタリ。洋書のそういうドキュメンタリらしく、個人に迫…

飯田泰之 『ゼロから学ぶ経済政策』

「ゼロから」として始めるのは幸福の定義で、そこから経済政策の意義を語り、基本的な理論をきちんと実学の視点から説明する、まあズブの素人向けの良書。素人目にどう考えても理論か実践かのどっちがかぶっ壊れている日本の再分配も、貧困率のデータなんか…

ブラッドレー・ボンド,フィリップ・N・モーゼズ『ニンジャスレイヤー キョート殺伐都市1-2』

忍殺の2章。俺がweb版の忍殺に出逢ったのはこの新幹線の辺りからなので感慨深い。さすがに書籍のスピードに置いてかれつつあるけど、まあ今年は少しペースが落ちるらしいのでガンバルゾーですね。ネザークィーン=サンのビジュアル、こんなんだったか−! とい…

堀越二郎 『零戦』

零戦の設計者が戦後に、その開発思想を振り返る本。戦争に勝つとか、敵の飛行機を落とすとか、人を殺すとか、そういう目的は海軍によって具体的な数値のスペックに落とし込まれた、その後の(無茶な)要求に応えていくための技術者の物語。それはちょっと前に…

カイザー・ファング『ヤバい統計学』

統計学そのものというより、その学際的な結果と、普通の人の直感とのコンフリクトについて語られた本。そして現実的なソリューションとしては、直感に見合う方がとられたりする、ところに無力感がある。原文の口調は知らないけど、アメリカでのあるある事象…

三田誠,虚淵玄,奈須きのこ,紅玉いづき,しまどりる,成田良悟, 小太刀右京 『レッドドラゴン 5』 『レッドドラゴン ワールドガイド』

TRPGのリプレイ、本篇は決着寸前。ここまで命を懸けて生き様を炸裂させているのに、簡単に死なせてくれない、リタイアはない(システム的に還り人とかあるし)というところに、演者の深みが要求されていて、それをちゃんとこなすこの作家陣だよなあ。ワールド…

一肇 『フェノメノ 肆』

『幽式』寄りというか、ヒロインの夜石がややまともな可愛い女の子に堕落しつつあるところ、急転な一冊。フェノメノ 肆 四回廊事件 (星海社FICTIONS)作者: 一肇,安倍吉俊出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/11/15メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品…

杉山登志郎 『発達障害の子どもたち』

いざ知能検査とかで発達障害の診断が出た時、幼児から高校くらいまでの教育に於いて、親はどうすべきか? という話(どうやら養護学級の自分の子供を入れることに抵抗を覚える親が多いらしい)について、そのよくある誤解を解くという形で、実際の治療例なんか…

幸田露伴 『運命 他一篇』

表題作は明の皇帝争いの戦争を描いた歴史小説。一応フィクションなんだけど、そのストーリーは中国に既存の歴史書で、評価されているのはそれを日本語に書き下した文体であるということらしい。確かに、漢文の読み下し文なのに、ちゃんと手についた日本語で…

村上春樹 『使いみちのない風景』

2,30年前の、写真に合わせた短いエッセイ集。旅行、というか、行く先々でここにに移住してみようかしらんと考える、「住み移り」というものを題材にしている。この点、博士課程の物理屋なんかは、海外出張がある意味で海外ポスドク期間に対する下見で、行く…

唐辺葉介 『電気サーカス』

週刊アスキーに連載してたやつ。ISDNとかが出始めた頃のテキストサイト界隈に青春を過ごした、猥雑で憎めないクズな人の話。小物とかディテールがそれを用いるだけで、どうにもだめでだめでだめな主人公がぐるぐるぐると酩酊する救えなさはこの著者特有のも…

堀辰雄 『菜穂子』

母娘とか、それぞれ結婚した後の幼馴染みとかが、ちょっとだけ擦れ違うように触れあうのだけれど、お互い自分の言いたいこともよく分かんないままで、結局わかりあえないでそのまま孤独な人生を生きる(死ぬ)、みたいな話。まあプラクティカルにどうにかする…

山上敏子 『方法としての行動療法』

前に読んだhttp://d.hatena.ne.jp/cmizuna/20131027/p1の内容が、こっちは専門家向けにまとめられたもの。こっちの方が先に出てたんだけど。専門雑誌に連載していた論文集ということで、出てくる治療例なんかはほぼ共通なんだけど、こっちはかなりテクニカル…

瀬名秀明 『パラサイト・イヴ』

細胞内に共生していると言われるミトコンドリアが、人間に対して反旗を翻し、その圧倒的なATP生成能力で人を焼き殺していくサイエンスホラー。研究者がその専門分野を下敷きに書いたということで、かなり描写はハードSF的。まあその点、個人的には、後半でミ…

山上敏子 『山上敏子の行動療法講義with東大・下山研究室』

まあ1年半くらい前まで俺もあんま知らなかったんだけど、臨床心理士っていう職業があって、精神科医とは別の職業で、貴方は何病ですとかの病名をつけたりとか薬を出したりとかは出来ないんだけど、しかしまあ最近は保健所とかそちこちの学校やら会社やらにあ…

竹内薫 『ペンローズのねじれた四次元』

15年くらい前のブルーバックス。なんか著者の色がきつくて読むのがつらい。相対論を理解するには科学哲学が必要だ、とか言い出すし(そのわりに、ちゃんと数式読めば書いてあることしか言わない)、途中でうだうだ観測問題の話を科哲の言葉でうだうだ語ろうと…

田中ロミオ 『田中ロミオの世相を斬らない』

エロゲ雑誌に連載してたコラム集、っつうかエロゲをネタにしたSS集。まあ、途中からはエロゲにこじつけるオチが読めてくるので、そのこじつけの脱力感を楽しめばいいんだけど、そこをこじつける腕力は、まあさすがのものだったりする。

杉井光 『神曲プロデューサー』

スタジオミュージシャンを主人公にした、杉井光の音楽もの。それで、一般文芸から出してるだけあっていつもより少しだけ登場人物が大人となると、まあ面白くないわけがないよね。うっかり一気読みしてしまった。ほんとは、なんかこういうのこそをラノベが許…

堀辰雄 『風立ちぬ』

サナトリウム文学である。なんのメタファもなくそのまま自然を描写して、その美しさを伝えるのはこの作者ならでは。生を失いかけないと生の美しさが分からないのなら死ぬしかあるまい。風立ちぬ作者: 堀辰雄発売日: 2012/09/13メディア: Kindle版この商品を…

ファインマン 『ご冗談でしょう、ファインマンさん』

初読だけど、まあ面白かった。何につけて全部一から自分の理屈で理解しなおす、それを度を越した範囲と、その効力を信じる頑なさとで全部をやってしまう点が面白くて、それをやってしまえる速度が、ファインマンさんの天賦なんだろうな。 どうだろうなあ、天…

グレッグ・イーガン 『祈りの海』

わりとハード目なSFの短篇集。初めて読んだ作者だけど、これは凄いなあ。面白かった。ロジカルで、そのベースとなるサイエンステクノロジーの部分も堅実で、設定のための設定にならずに物語として語りたい題材を語っている。祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)作者: …