美宅成樹 『分子生物学入門』

15年くらい前の本なんだよなあ。分子生物学の本。前進が速い分野なので今も正しいことが書かれてるのかどうかは分からんが。序盤から中盤は、生物に必要な機能を分子レベルでどのように発揮されているか、これとこれがくっつくとタンパク質の形が変わって云…

幸田文 『駅・栗いくつ』

幸田文のエッセイ集と短編小説。書いてあることはそこら辺のオバサンの、ある意味では個人的で頑固な思い込みであったりするんだけど、ちゃんと経験に基づいてることと、それをぴったりの言葉を選んできて、経験の確かさのままに文章化されてるところが、や…

『鳶魚江戸文庫10 公方様の話』

明治3年生まれで江戸幕府についての文献を読み解くことで知られた三田村鳶魚の、これまでの将軍の女好き事情を暴露したもの。江戸時代には幕府を開いて神様扱いされていた徳川家康に始まり、各将軍の大奥事情を、まあ下卑た野次馬根性で紐解いていくんだけど…

柳田国男 『遠野物語―付・遠野物語拾遺』

遠野物語の方はずっと前に読んで、半年前に遠野行く前にも読み返したんだけど、拾遺の方は初読かな。遠野物語の方が本格的に伝奇って感じの話が多くて、つよいエピソードが多かったのに比べて、拾遺は下ネタっぽい話だったり(懸想が叶わなかった男が「そこの…

キム・ステレルニー, ポール・E.・グリフィス 『セックス・アンド・デス』

生物哲学の色々なトピックを取り上げて、今まで(15年前)の議論を解説する本。抄訳だけど、足りない部分(80Pくらい)もpdfでwebに揚げられてるので実質的には全訳。『利己的な遺伝子』あたりの主張を背景にして、本当に親から子に受け継がれる単位が遺伝子なの…

『鳥類保全学』

日本の野鳥の保全についての論考が十数本、異なるテーマで並べられた本。「種の保全」とか「生物多様性」とかいうときのそもそも保全すべき単位、種や亜種の話から、バイオロギングの話(これは更にアップデートがありそうだけど)、オイルタンカーの転覆とか…

河合隼雄,鷲田清一 『臨床とことば』

臨床心理学者と臨床哲学者という肩書きで、現場での"実感"を言葉にして摺り合わせていくような対談。「そうかもな」って正しそうに思えることもあるけれど、それだけじゃなくて、不思議と「必ずしも正しくなくてもいいんだろうな」と思えるような、本当のこ…

ダーウィン 『種の起源』

言わずと知れた進化論というか自然選択の祖。種が神の作ったままに固定されていると考えられていた時代に、それが変わりうると言ったワンアイディアだけでも充分すごいのに、ちゃんと考えられる反論に対して弁解を行っているあたり、まあ丁寧だなあというか…

三中信宏 『分類思考の世界』

ちょっと種と亜種の違い(対象と用途によって使う定義が違うらしい?)を知る必要があったので、分類学の一般書をタイトルだけで探してkindleで買ったらなんか違った。種とは何かっていう問題提示のところもそこそこに(わりと抽象的な話で終わる)、それは生物…

江國香織 『号泣する準備はできていた』

そこそこ金だったり地位だったりがある妙齢の女が、不倫してみたり男と別れてみたり、という話の続く1冊。どれも、思い切れずにとれなかった、ありえたかもしれない可能性の先にある自由という孤独、にちょっとだけ思いを馳せるような話ばっかりで、まあそこ…

米長邦雄 『われ破れたり』

こないだの正月の時にもやっていた人間とコンピュータの将棋対決電王戦の、3年前に行われた第1回、その時点で第一線から退いていた当時の日本将棋連盟会長、永世棋聖米長邦雄が出て破れた一局の敗戦記。全盛期の自分との比較とそれを取り戻そうとするまで、…

加藤 ゑみ子 『お嬢さまことば速修講座』

半分お遊びのような形で、お嬢さま言葉を日常に使うために気を遣う場面を15個のポイントに絞って解説する。ゆっくり喋るとか、相手を否定する時は迂遠に曖昧に、なんて気品高くあるためには必要なことなんだけど、仕事場に持ち込まれるとなかなか難しい話で…

矢野大輔 『通訳日記』

4年前にザッケローニが日本代表の監督に就任してからW杯に敗退して解散するまで、ずっとザックのそばで通訳をしていた著者の日記。最初から監督の中にあったビジョン、戦術をひたすらに体現しようとするスタッフ、それに応えようと一生懸命にプレイするプレ…

森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』

京都という場所は、薄皮をめくった裏側にいかにも何か隠していそうで、その「ここめくれるんじゃないかな?」っていう穴がいっぱい開いているように見えるのが京都だと思っていて、そのめくった先にこんな狂乱があればいいなあという意味のファンタジー。夜…

笠井献一 『科学者の卵たちに贈る言葉 -江上不二夫が伝えたかったこと』

戦中くらいに名大の教授になったくらいの年齢の生化学者、江上不二夫が後進の育成に際してかけ続けた言葉を、その弟子である著者が追想してまとめる。物凄い勢いで学生をおだてて、生物の実験の人なのに流行りに乗らずに独自に重要な課題をやろうとして、実…

唐辺葉介 『つめたいオゾン』

2人の人間の思考が混じって自己を失ってしまう病気、に罹ってしまった2人の少年少女がモラトリアム的な施設の監視の下に生きる話。少女が、もともと自分の生きてる意味が感じられない、それならまだ分離している今のうちに少年のために自死を選ぼうとすると…

桜庭一樹 『無花果とムーン』

色々歪んだ少女の1人称から語る、義兄弟を亡くしてそれを受け入れるまでの不思議な話。その、普通のラノベとかだったら疾走感とかで誤魔化される少女主人公の暴走を、いちいち周りの人が諫めて、その性格の悪さを指摘したり、あとは文体自体が妙に読みづらく…

山田奨治 『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』

今やってるお勉強の内容に著作権が入ってて、まあこれが、普通にweb見てるだけでこれまでの権利団体のクソみたいな統計に触れる機会が多かったわけで、そんな結果で作られた条文を見る度にわりとモヤモヤする、しかもちゃんと調べてみると、その利益誘導で作…

戸田山和久 『科学哲学の冒険』

科学哲学の入門書。優しい口調で、科学的手法の正しさの根拠を問うための色んな議論を概観する。個人的にこれまで物理やってたのは"超弦理論"って言葉に興味があっただけで世界の成り立ちはたいしてどうでもよい、更に言えばその超弦理論が現実になにか反証…

『リスアニ! Vol.19』

I'veが珍しく真面目に音楽のインタビューを受けていると聞いて買ってきたのだ。まあ雑誌全体、インタビュー以外の部分を埋める文章が、なんか素人の思いつきインプレッションになんでも"感"って付けただけの、クソほどの説得力もない文章をどうにかするため…

米原万里 『旅行者の朝食』

食べ物に関する短いエッセイを集めた1冊。食というのは文化とかアイデンティティにほんとに根強く結びついているもので、オリジンが2つあるぶんそこのギャップを上手く使えて、更に雑学的な知識を混ぜるとエッセイの重さとしてちょうどよい面白さになってい…

北岡明佳 『錯視入門』

色んな錯視がカタログ的に並べられている。入門は入門なんだけど、わりと研究寄りで、先行研究の整理という趣が強い。こことここの角度が何度から何度までなら錯視が起きる、みたいなことも書いてあるんだけど、そういうことを言うなら「起きない」場合の図…

村上健司 『妖怪事典』

びっくりするくらいの量の妖怪を取り上げて説明する、まさに事典。どちらかというと、既存の一次資料に遡ってそれらを突き合わせるというところがメイン。この1年くらい出先でヒマな時に読んでて、気になる妖怪をメモしたのが以下である。説明文を読まないと…

岡本浩一 『上達の法則』

数年ぶりに再読。練習して上手くなるような技能をどう効率よく上手くなるかということを、"感覚の言語化"みたいなことを中心にきちんと整理したような本。まあ一応物理の研究を数年修めて挫折した今となって思う(そこまで"感覚"に頼る分野ではないけど)のは…

森博嗣 『カクレカラクリ』

廃墟オタの大学生2人が夏休みに田舎に赴いて、そこに伝説だけ残されている絡繰人形の謎を解き明かす話。途中で出てくるミステリ的な暗号は一目見りゃ解けそうなもんだし、まあすんなり読めてしまうだけの作という気がしてしまうが。人間の意志の美しさ云々の…

稲森謙太郎 『知られざる特殊特許の世界』

世の中に実際に出願されている特許(と実用新案)のうち、有名人が出願してたり明らかにトンデモだったりする、みたいな分かりやすく面白いやつの明細書を取り上げて面白がる一冊。その中に特許制度について説明するコラムも結構あるんだけど、意外と刊行が古…

桜庭一樹 『赤朽葉家の伝説』

鳥取の田舎の旧家に生きた女三代を描く。急激に動く時代の影響を受けながら、奇妙な力でそれとどこか切り離されているような赤朽葉家の中を書くことで、背景の中から浮かび上がる強烈なキャラクターが生き抜く様子が印象強くて、普通に面白い。赤朽葉家の伝…

渡辺佑基 『ペンギンが教えてくれた 物理のはなし』

バイオロギング、野生動物にGPSとかの計測装置をつけて移動距離なんかを調べる、わりと流行りの動物行動学の手法で分かった、最近の研究の話。それで色々な動物の泳ぐ速さや潜水時間なんかを集めて、体の大きさと一緒にプロットしてみるとあら不思議、なんか…

オリバー・サックス 『妻を帽子とまちがえた男』

脳疾患、特に右半球の疾患によって、幻肢や失認などの不思議な"感覚"に陥ってしまった臨床例を、30年くらい前の臨床医がエピソード的に語る。まあ時代的なこともあって、外からでは何が起こってるのかが分かりにくい症状に苦しんでる(苦しんでない人もいるが…

紅玉いづき 『あやかし飴屋の神隠し』

結局前半分くらい少女小説じゃねえか! 現実と妖かしの際を彷徨いながらそこに執着せずに戻ってこられる、というあっさり感は男主人公だからなのか、かもしれない。あやかし飴屋の神隠し (メディアワークス文庫)作者: 紅玉いづき出版社/メーカー: KADOKAWA/…