円城塔 『これはペンです』

表題作。自動筆記、文章生成についてSF的なアイディアを次々と出して、ものを伝えるための文章というものの本質に迫っていくような作。まあ本質に迫ってどんどん皮を剥いでいって、その中に書いた本人のキャラクターがいると思ってる辺りが実にロマンチック…

『プロメテウスの罠 1』

震災から半年後に始まった朝日新聞の連載で、福島第一原発の事故の直後に何があったのか、静かな口調で事実に基づく形で、個人の名前を出して考証する。なんつうか、マスコミもやれば出来るんじゃん、と思うくらい客観的で明確な取材になっていて素晴らしい…

西内啓 『統計学が最強の学問である』

統計学を知っていることがどのくらいの利益を生むか、ということを主眼に、統計の力を紹介していく本。まあ、一応俺の副職であるところの素粒子物理は、エラーバーを小さくするためにちょう頑張ってる人たちが近くにいるとこなので、統計の基本的な能力は知…

ニール・D・ヒックス 『ハリウッド脚本術』

ハリウッドでウケるようなストーリーテリングの技術を解説する。なんなら著作権の登録の仕方とかまで載っていて面白い。職業作家として必要なんだろうなあ、まあ論文の書き方指南とかと同じかなあ、と思う。内容はそうねえ、「なんとなく書くな」に尽きるよ…

スティーヴン・ジェイ・グールド 『ワンダフル・ライフ』

カナダにあるバージェス頁岩というところから発見された化石群に対して、それを復元、解釈することで世にも奇妙な生物たちを再現していく、古生物学者たちの話。ベストセラーになった後、わりと学問的に再解釈が進んで、色々間違いが見つかっている。進化も…

ジェームス・D・ワトソン 『二重らせん』

クリックと一緒に、DNAの螺旋構造を見抜いてノーベル賞をとった人ですね。科学者個人個人を、そこら辺にいる人間と同じく明け透けに書いたことでも知られる一冊で、まあ特にフランクリンのイメージを落としたことでも有名な本ですけど。 なんだろうなあ、個…

幸田文 『包む』

エッセイ集。実生活をしっかりと営む、その中で一瞬、露伴譲りの作家の眼と、人生を積み重ねてきた数十年の重厚さが働いて、切り取って、自省の形を取ったエッセイにしてしまう。最初に現れる『子猫』が珠玉。包む (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)作者:…

紅玉いづき 『サエズリ図書館のワルツさん 2』

紙の本が高価となった世界での図書館のお話。就活に苦労して、それまで千鳥さんを苛んできた、天職、適職という言葉に、最後にふわっと救われる感じ、小説的な効果みたいな気負いを感じさせない、そのままの優しさって感じで、それがこの小説らしさ、この作…

戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎 『失敗の本質』

80年代から知られる名著で、WW2で日本軍が特に大敗した戦闘を陸海それぞれいくつかずつ選んで、その敗因を主に組織論から探って、現代日本にも応用できる組織論としていく。それが、雰囲気を壊すのが嫌で不条理な作戦に異を唱えられなかっただの、精神論を押…

島田裕巳 『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』

日本の仏教の各宗派ごとに、その成り立ちや歴史、教義の特色なんかをまとめた本。京都に住んでると、各宗派の重要な寺として、結構知ってる寺が出てくるのは面白い。色んな宗派について縦断的に、一覧性のあるページがあると読み返す時に楽なんだけどなーと…

清永賢二,清永奈穂 『犯罪者はどこに目をつけているか』

路上での強盗や性犯罪、家への押し入りなんかの各状況について、凄腕の強盗の獄中日記や直接のインタビューなんかを通じて、どういうことをしていれば犯罪の対象になりにくいかが記されている。なんにせよ、この凄腕たちに一度目を付けられてしまえば、どん…

笠原嘉 『軽症うつ病』

17年前に書かれた、精神科医によるうつ病についての考察。前に読んだこの人の本もそうだったけれど、筆致がとても丁寧で、人を信頼させる何かがある文章を書く人だと思う。中身は、自分の治療経験を基に、症状や原因の大別、治療経過なんかを説明していく。…

水島広子 『自分でできる対人関係療法』

他人を、家族や恋人などの「重要な他者」、友人や同僚、それ以外の他人、と3つくらいに分類して、その「重要な他者」との関係に的を絞って、そことのかんけいのを改善する色んな方法が載っている本。なんか、相手にははっきりと直接的な言葉で伝えましょうと…

野村総一郎 『専門医が教えるうつ病』

イラスト満載で、うつ病になった人、周りの人がどうしたらいいかを分かりやすく説明した本。学術的な分類の話とかも特になく、実用的にいいことと悪いことが書いてある。まあ兎に角、罹ると本とかも集中して読めなくなる病気と聞くからなあ、分かりやすいの…

林公一 『境界性パーソナリティ障害―患者・家族を支えた実例集』

他人に見捨てられることを極端に恐れて自殺未遂を繰り返したりする、境界性パーソナリティ症候群の症例集。まあ本人に関しては「医者にちゃんと通って薬とカウンセリングをちゃんとしろ」以外に言えることはないといえばないので、メインは周りの人の対応な…

林公一 『擬態うつ病/新型うつ病―実例からみる対応法』『それは、うつ病ではありません!』

Webで有名な林先生の、まあ独自の言葉で言うところの「擬態うつ病」についての2冊。特に理由なく罹り薬を飲み続ければ半年から一年で多くが治る「うつ病」に対して、それと似たようなうつ状態を示すけど別の病気だったりパーソナリティ障害だったり、あとは…

山崎朋子 『サンダカン八番娼館』

わりと有名な本かな。戦前くらいに、東南アジアとかで身を売っていた女性、からゆきさんの実態に迫るため、女性史研究者としての素性を隠しながら天草へ行き、当時のからゆきさんであったろうと目を付けた、物凄く貧乏な女性の家に泊めてもらい、仲を深めな…

三田誠,虚淵玄,奈須きのこ,紅玉いづき,しまどりる,成田良悟 『レッドドラゴン 4』

そうか……。システム的に1回までは死ねるのかー……。忘れてた。RPF レッドドラゴン 4 第四夜 夜会擾乱 (星海社FICTIONS)作者: 三田誠,虚淵玄,奈須きのこ,紅玉いづき,しまどりる,成田良悟出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/04/16メディア: 単行本(ソフトカ…

一肇 『フェノメノ 参』

主人公のホラーに対する覚悟と耐性が付けば付くほど、身近な、日常から一歩外れた時に落ちてしまうホラー、という怖さからはズレて来ているようで、しかし視座としての目線は彼が持っているだけにそれはそれで別の怖さだったり。フェノメノ 参 収縮ファフロ…

瀬戸口廉也 『CARNIVAL』

後日談。美しい。悲しいけれど救い、のようでいてそれは救いでない。自分が死ねばそれで終わりなのだけれど、それでは残された人は決して赦されないのだ。それは"一抜け"なのか。CARNIVAL (二次元ドリームノベルズ)作者: S.M.L,瀬戸口廉也,川原誠出版社/メー…

西部謙司 『サッカー戦術クロニクル』

「トータルフットボール」というキーワードを軸に、具体的なチーム名や人名を挙げて、図解しながら過去の際立ったチームを紹介していく。まあ過去の話だけあって整理されて理屈も付いているので、あんまり当時を知らない人がさらっと読むと、それで納得して…

坂口安吾 『白痴』

戦時中の話が多かったかな。『堕落論』の思想を具現化したような小説、という言い方をされることが多いけど。国などの共同体と自分を切り離して、自分1人の肉欲を見つめてそれに溺れる、個人になれる、その窮屈な軽やかさなあ。本当に戦時中にそういう自由な…

野村総一郎 『うつ病の真実』

これまでの鬱病治療の、まあDSMによる診断と投薬、みたいな画一的なプロセス(よくいう喩えだと「その辺で転んで折れた骨もスキーで折れた骨も治し方は一緒」とか)に疑問を投げかける形で、鬱病のそもそもの原因を考えてみよう、という動機の本。それでとるア…

ブラッドレー・ボンド,フィリップ・N・モーゼズ 『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上 3,4』

ネオサイタマ編後半。話の筋はベタベタ王道だけど、それが文体の馬鹿馬鹿しさを超える熱さをもたらしているわけで、そうして完成したハイブリッドは新しいものとして面白いという。まとめ読みが意外と向いてたな。ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上 (3)作…

林公一 『うつ病―患者・家族を支えた実例集』

webで有名な林先生が集めた、鬱病治療の実例集。典型的な症状、実際の治療、周りの人のあるべき対応なんかが、実例をもとにコンパクトにまとめられている。あくまで医者にかかって、医者と相談しながら薬を飲むことをきちんとしないといけないんだな、という…

千野帽子 『俳句いきなり入門』

何人か集まってそれぞれの俳句の感想を言い合う"句会"、そこで盛り上がるような俳句を作ることを原理に、俳句の作り方を説明する。まあ自己顕示欲ポエムはクソ食らえみたいな筆致なんだけど、余白を残すことで産まれる色んな人の解釈の面白さみたいなことは…

V.E.フランクル 『夜と霧』

ユダヤ人として強制収容所に入れられて生還した精神科医が、その絶望的な環境の囚人が、どういった心理的推移を辿るかを記録したもの。なんか最近新訳が出たらしくて、俺が読んだのは旧版。旧版にはそのフランクルが記述したものの前に、「解説」と銘打って…

『超エロゲー ハードコア』

ここ数年のエロゲのレビュー集と、あとは業界人たちのインタビュー集。レビューの方は、なんというかイロモノ枠のエロゲを多く取り上げて、基本はそのブッ飛び方を楽しむような筆致なんだけど、そこが時折、揶揄の筆致になってしまってなんだか昔のテキスト…

宮本直毅 『エロゲー文化研究概論』

アダルトゲームの歴史を、業界の流れ全体を意識してまとめた通史としての1冊。ほんとの最初の頃、よく「あのコーエーとかスクウェアも昔はエロゲを出してたんだぜ」ということが語られる頃のソフトを1本ずつ取り上げることから始まり(読んでて『放課後マニア…

米澤穂信 『インシテミル』

閉鎖された舞台で行われる殺人ゲーム、を題材にしたミステリ。ゲームのルールは面白かったから、それだけにもう一段階ルールを利用したメタ的な結末になるかと思ってたんだけど、意外とそのまんま終わってしまった。インシテミル (文春文庫)作者: 米澤穂信出…