鷲田清一 『京都の平熱』

京都で生まれ育った哲学者が、市バス206系統(駅から東に行って東山通を北に、そっから北大路で西に曲がって、千本から南行って大宮通から駅に戻ってくる、京都の中心部を囲う長方形型の経路)に沿って、各スポット("異世界への孔")に根付く思い出話から、哲学…

竹宮ゆゆこ 『知らない映画のサントラを聴く』

ラノベと呼ぶと怒られる文庫。親友を喪った無職23歳女と、その親友の元カレが、なんだかよく分かんないまま同棲する話。単巻ならではのスピード感が、このよく分かんなさを煽る。そのよく分からなさとは、その親友の喪失をどう葬送するかというのを上手く処…

須和雪里 『サミア』

耽美小説、表題作含む中篇3つ。濡れ場もあるけど、なんで濡れてんのか分かんない(なんていう腺から出た分泌液で尻が濡れてんだ?)話もある。遠い星からやってきた美形エイリアンと(身体を自由に変形できるから、もうやおい穴とかいうレベルではなく穴が自由…

丸島儀一 『キヤノン特許部隊』

1950、60年代にそれまでカメラメーカーだったキヤノンがコピー機に参入する時に、それまで技術的に独占していたゼロックスの特許をかいくぐるのに活躍した著者、まあこの事例ってのが知財分野ではかなり有名な話らしくて、その後は特許協会の理事長として国…

J. さいろー 『SWEET SWEET SISTER』

そういう場面の描写に長けてるエロゲライターの筆による、2人暮しの姉弟を中心とした官能小説。かなり紙幅があって、姉の友人やクラスメイトの転校生など色んな女の子にパターン豊かに責められる。姉の学校でのストレスを起因として、性交の快楽それ自身に、…

米原万里 『真夜中の太陽』

2000年前後に女性週刊誌などに載せていた短い社会批評コラムを集めたもの。まあなんつうか、ロシア通だけあって、反米から来る反グローバリズムの話が多いんだけど、『ミセス』とか『婦人公論』とかの読者としての主婦層って、ある程度金持ってて、それをあ…

吉村昭 『羆嵐』

大正期の北海道であった有名な熊害事件、三毛別羆事件のドキュメンタリ。まあ概要をwikipediaで読むだけで充分怖さが伝わる話で、そこを3人称で淡々と書く前半は、種としての人の弱さが強調されてるくらいであんまり目立つところはないんだけど、後半、いざ…

ロバート・B・チャルディーニ 『影響力の正体』

人が思考を省略するためにこれまで得てきた無意識の判断を、アンフェアに利用して自分の利益を得てきた人たちのやり方を、社会心理学の実験フィールドとして扱って暴露する本。無意識に人の真似をする(自殺報道があると自死率が上がるそうな)のを利用してCM…

桜庭一樹 『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

淫乱な母親から生まれた美しいかんばせを持つ少女の、その美しさの持て余し方、つまり、生まれた北国の小さい街から出られない幼さとか、同じ美しさを持つ幼馴染みの男の子との、普通の人たちとはリズムが違う会話とか、その拙さが、上手く歩けない幼児を見…

アストリッド・リンドレーン『長くつ下のピッピ』

学はないけど剛力で豪胆な1人暮らしの少女が主人公の有名な童話。自由気ままなピッピが女の子の憧れになってきた、そうな。そういうカウンターとして読むならいいけど、普通に読むと非常識っぷりにかなり引く。自由なのも大切だけど、自由に価値を与えるのは…

夢野久作 『いなか、の、じけん』

九州に住んでいた作家の、田舎に起きたいまいち間抜けな事件(殺人とか事故死とかあるけど)の新聞記事に取材した、という体の短篇集。田舎という"粗野"の粗さが間抜けに見えるんだろうな。いなか、の、じけん作者: 夢野久作発売日: 2012/10/01メディア: Kindl…

紅玉いづき 『青春離婚』

アンソロの一篇だった『青春離婚』が、中篇を2つ加えてやっと独立して刊行である。その2つも、それぞれtwitterのbotとソーシャルゲームを通じた少年少女の恋物語で、なんというか、小道具が進化して、環境だって変わって先でも、こういう物語が今のものとし…

三田誠,虚淵玄,奈須きのこ,紅玉いづき,しまどりる,成田良悟, 小太刀右京 『レッドドラゴン 6下』

ついに完結。まあこの最終局面まで収束(一番確率の高いものとして用意されてはいたでしょう)してしまって、しかもボスデザイン的に余計なことせずに殴るしかないという状況に至っては、それぞれの行動原理の一番大事なところだけ見せていくしかない、という…

一肇 『フェノメノ 伍』

クライマックス前、過去の回想へ。ホラーでありミステリでありサスペンスであり。こっからどんだけ酷くもどんだけ優しくも幕が引けそうだけど、それは作者を信頼するしかないんだろうな。フェノメノ 伍 ナニモナイ人間 (星海社FICTIONS)作者: 一肇,安倍吉俊…

海猫沢めろん 『左巻キ式ラストリゾート』

2004年に出た18禁小説の再版。安易で露悪的な暴力混じりのエロを、メタフィクション特有の気軽さでまとめる。一時代を作ったエロゲというフォーマットの安易さを糾弾しながら、DTPを駆使して本というフォーマットの自由さを模索した、という風に「これは、ゼ…

夢野久作 『ドグラ・マグラ』

読むと気が狂うとか、日本探偵小説三大奇書なんて言われる一作。自分自身を対象として取り扱う際に入れ子構造を使ってメタ的にいかなくちゃいけない、という意味では『ゲーデル、エッシャー、バッハ』とかに近いような気もするが。あれも長いしな。目が醒め…

町山智浩 『教科書に載ってないUSA語録』

雑誌連載されていたコラム集。政治家やハリウッド俳優の発言を取り上げて、米国内事情を取り上げる。2009〜2012くらいの連載で、話題はちょっと古めの切り口ながら、どうしようもない品のなさと、それを必死で取り繕っているかのようなアメリカ社会を軽めに…

米原万里 『心臓に毛が生えている理由』

2000年前後に新聞や雑誌に載せていた短いエッセイを集めたもの。ロシア語の通訳、特に同時通訳者として国際会議を受け持ったりするのだから、そこには機転と知識とそして何より度胸(毛の生えた心臓)が要るわけで、それをバックグラウンドに軽めの切り口で時…

村上春樹 『女のいない男たち』

女のいない男たち、いなくなった男たち。用意してあった場所が空白になっているのに、自分で目を向けられるかどうかが、どんな形の空白であるかよりも重要な問題になっている気がする。静かな話が多い。(この作者独特の言葉で)何かを比喩させるためにあるか…

浅田次郎 『鉄道員』

短篇集。なんかどれも、好き勝手やってきた男が女神みたいな女に勝手に許された気になる話ばっかりで、かなり鬱陶しい。鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)作者: 浅田次郎出版社/メーカー: 集英社発売日: 2012/11/15メディア: Kindle版購入: 2人 クリック: 1回…

桜庭一樹 『推定少女』

この作者らしい、少女が大人を嫌って逃げる物語なんだけど。宇宙人とか出てくる。あんま掴み所のない小説。なんたってエンディングが3通り並列にある。信じたい未来を適当に採用するのだ。推定少女 (角川文庫)作者: 桜庭一樹出版社/メーカー: KADOKAWA / 角…

森見登美彦 『四畳半神話体系』

アニメ先に見たから「あんま繰り返さないんだー」「飛行機で飛ばないんだー」と思った。まあ個人的には、いま周りにいる人も何もかも物理関係ばっかなので、違うことしたら絶対こんななってないはずなのに……! 感は色濃い。四畳半神話大系 (角川文庫)作者: …

米原万里 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

幼少時代にチェコ=スロバキアのソビエト学校で共産圏の色んな国の子供たちと過ごし、そのあと日本に帰国してしばらくするうちにソ連崩壊があって共産圏がすったもんだになる、その後に、消息の途絶えたその幼少時代の友人たちを探しに向かうというノンフィク…

久弥直樹 『サクラカグラ 1』

おーい誰か久弥の行方を知らんか? でお馴染みの(『Kanon』の企画、『ONE』の茜やらみさき先輩シナリオやらでお馴染みの)久弥、久々にお目見えである。確かに序盤の断章的なモノローグの入れ方とかそれっぽいかなーとか、まあ途中が『Kanon』の舞シナリオ(担…

ゲイブリエル・ウォーカー 『命がけで南極に住んでみた』

化学を修めた経験もあるイギリスの女性ジャーナリストが、南極大陸の滞在経験を記す。もちろん地理的にも物資的にも極限的に隔離されている中、南極条約があって、今南極で出来ることって科学研究くらいしかないという、もう純粋な学術的好奇心をときめかせ…

浅田彰 『「歴史の終わり」を超えて』

フランシス・フクヤマの『歴史の終わり?』を批判的な切り口に、サイードとかボードリヤールとかの有名な哲学者と対談する一冊。20年くらい前の対談集で、現実的な情勢を題材に扱ってるだけあって、まあ哲学に徹するよりは分かりやすいけど、やや時代遅れな感…

バルザック 『谷間の百合』

前に読んだ『ゴリオ爺さん』と同じ人間喜劇の中の一作。農地でDV男と結婚して2児のいる若妻と、それに一目惚れした若者の成就しない恋の話。まあ想い合っているのもお互い知っている、肉体関係にならないのは夫への貞操のため、離婚しないのは夫のもとに子供…

いとうせいこう,みうらじゅん 『見仏記』

両著者が各地の色んな仏像を、細かい蘊蓄なしにそれぞれの感性だけで見て語り合う旅行記。文章を担当するいとうせいこうの連想から始まる妄想と、イラストを入れるみうらじゅんの、仏像を今の感覚で格好良いものとして見るための鑑賞技術と、まあいずれにせ…

村上春樹 『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』

実家にあったのを10年以上ぶりに再読。ウイスキーの産地を訪ねて、蒸留所を見に行ったりその地元のパブでゆっくり飲んだりする、半分くらい写真の旅行記。10年ぶりに読んで、その間にウイスキーの旨さ(ラガヴーリンうまいな。正露丸だけど)は覚えたけれど、…

一肇 『少女キネマ』

芝居がかったレトロな文体に、大学サークルでの創作活動を賭ける青春小説。創作における才能という身を削った孤高性の切迫感と、それに浮かされた終盤の疾走感あふれる展開、最後にぽすっと受け止められるエンディングで、読み終わった瞬間の読後感は最高。…