よーい、どんっ

 朝6時前に起きて。毛布を畳み、使っていた枕をゴミ箱に突き刺して、研究室を出ます。

 廊下から中庭の桜が見える。ここの桜は毎年他の桜よりちょっとだけ早くて、この日ももう満開になっている。湯川桜という、うちの研究所の初代所長ゆかり、元を辿れば醍醐寺という京都の名刹、なんなら前にも書いたけど、俺が京大に来ることになったときに連れてかれて庭に感銘を受けたその寺の桜と株を同じくしていると聞く。この湯川桜、外からでは見えなくて、いったん中に入って、それで窓から出ないと目前にすることはできないのだ。


 写真を撮ったら学校を出て市バスに乗って駅に行きます。何百回乗ったか分からない17系統。百万遍出町柳河原町今出川、府立医大荒神口河原町丸太町、市役所、河原町三条、四条河原町河原町松原、五条河原町。全部のバス停に思い出があるなあ。京都駅に着いて、普段と違う行き方、『たまこラブストーリー』のラストシーンと同じ道を辿って新幹線の改札へ。そこで、急に引越先のアパートの隣上下に配るものを何も買ってないということに気がついて、売店で京都の和菓子を買っている。これでさえ、前に台湾の大学にお呼ばれされたときにここで和菓子を買って持ってったら向こうの女子学生に「とても綺麗なお菓子で、女性が好みそうですね」なんて言われた思い出がある、というくらいにそこかしこに思い出がある。イングレスのポータルなんか目じゃないくらいあるからな。いい思い出は緑、悪い思い出は青。どっちだって、どぼどぼと溢れている。
 新幹線で新横浜に着いて、横浜線で最寄り駅に向かうんだけど、その横浜線名物の東神奈川止まりという、新幹線の駅から直で街中に出れない謎の電車トラップに引っかかって乗り換えに時間かかったりしながらもどうにか着いて。なんか、日曜の午前中ってこともあって、子供連れの親子が駅前にやたらいて、活気がある街に見えたのを覚えている。そして引越先に向かうんだけど、なんかびっくりするくらい坂のアップダウンがあって。もう自転車を買うのを諦めるレベル。着いて、管理人さんに挨拶して案内されてお菓子を渡し損ねて部屋に入ります。横浜で一番懸念してたゴミ捨てが、アパート単位で出す感じで楽そうで良かった。つうかね、新幹線を降りたあたりからぼんやり便意があるんだよね。そして新居にはトイレットペーパーがない。ウォッシュレットが付いて嬉しいけれど、今んとこトイレットペーパーがない。便意をどうしようもない。買いに行きたいんだけど、これから一日中、色々荷物が届く予定なので動けないのだ。便意を、どうすれば。あと、家の中に何もないと、寒い。ぼんやりと駅で買ったサンドイッチを食べます。
 正午を過ぎて最初に着いたのが、25日に発送したクロネコヤマトの箱15個。途端に部屋が狭くなるね。これを次々に開けていって、エロゲ関係と、既読の本と、未読の本と、同人誌と、それ以外の物資に分けて整理することで、箱の数を減らすことを目標にしていきます。というか、最初は食器の入ってそうな箱を開けます。なぜなら、こんなこともあろうかと京都で、食器を包む緩衝材としてトイレットペーパーを使っていたのだ。これで、包丁をくるんでいたトイレットペーパーをくるくるとほどいて、早速ウンコをします。これでひとまずの緊張感から解放されました。ひたすら箱の整理をしている最中にも、買い直した家電やテーブルが来たりして、どんどん部屋が狭くなっていく。もう1つの便で来た荷物からパソコンを床に直置きしてネットを繋ぎます。ひとまずひとまずという感じですね。あとは引っ越してきたよ的なメールを色んな人に投げました。このメールを投げることで色んな人との連絡を再構築するためだけに引っ越してきたようなもんですからね。
 取り敢えず21時過ぎに近くのスーパーに、ひとまずの飯とかトイレットペーパーとかゴミ箱とか買いに行きます。トイレットペーパー、なんかちょうどチラシの品とかで、脱臭作用のあるピンクの花柄のを買ったんだけど、これ、ウンコがまだ尻に付いてるのかどうか花柄に紛れて分かりにくいのですげえ良くない。毎朝困っている。あと惣菜のおつとめ品がえらい安くて良かったんだけど、なんつうのかな、引越前に比べて全体的にスーパーの大きさがめちゃめちゃ大きくなったので、何買っていいのか分かんねえんだよな。引越前に使ってたスーパーだと入浴剤なんか2種類しかなくて交互に買ってりゃ良かったんだけど、こっちのスーパー、柚子の香りの入浴剤だけで4種類くらいあるからな。
 そのままもう部屋中が段ボールに囲まれて、真夜中になるまで荷ほどきし続けてたら、一番部屋の面積が狭くなった瞬間に眠くなって、でも布団を敷くスペースもなくて、強引に段ボール箱をどかして、部屋と台所の間の通路に身をねじ込んで眠ります。買った布団セットの枕がしょぼすぎて悲しい。