山崎朋子 『サンダカン八番娼館』

 わりと有名な本かな。戦前くらいに、東南アジアとかで身を売っていた女性、からゆきさんの実態に迫るため、女性史研究者としての素性を隠しながら天草へ行き、当時のからゆきさんであったろうと目を付けた、物凄く貧乏な女性の家に泊めてもらい、仲を深めながらからゆきさん時代の話を聞き出していく。その、わりと古めの本で(出版は72年とか)からゆきさんについて全然証言も集まっていない頃の話なので、なんというか著者も、そんな可哀相な人がいて、という物凄い同情の念から入り、その証言を一人称で代弁する。今の感覚だと「それは著者の感情が入りすぎだろ」とか「その同情は上から目線」と思わないでもないんだけど、まあでも最初はそういうところから入らないと、話が始まらないよなあ。そこの著者の人間味が、最後にその同居していたからゆきさんとの別れのシーンの濃さに繋がることを思うと、この本の面白さが結局、からゆきさんというものを知らしめるきっかけになったわけで、まあそれすら重要な一要素だったということなんだなあ、とは思う。

サンダカン八番娼館 (文春文庫 147-1)

サンダカン八番娼館 (文春文庫 147-1)