宮本直毅 『エロゲー文化研究概論』

 アダルトゲームの歴史を、業界の流れ全体を意識してまとめた通史としての1冊。ほんとの最初の頃、よく「あのコーエーとかスクウェアも昔はエロゲを出してたんだぜ」ということが語られる頃のソフトを1本ずつ取り上げることから始まり(読んでて『放課後マニア倶楽部』欲しくなったんだけど、今買える?)、2000年代に入るまでにその紙幅の半分を尽くす。
 俺が体感してきたのはその後の10数年くらいだけど、そこには「そう、こんなこと、あったね」が時系列順に丁寧に積み重ねられていて、しかもそれに留まらず、ちゃんとまとめた歴史になっていた良書だと思う。まあもちろん、葉鍵以降から業界全体の幅が多様に広がりすぎて、ちょっと話が散発的かつ1つ1つが薄くなってはいたけれど、でも俺みたいな、もう新しいものを受け入れられない老害が、なんか新しいものを見た時に無理矢理「これはこれまでのこういう作品群のこの要素を発展させてきたもので、」みたいに参照する、そのために脳裏に思い浮かべるものたちがちゃんと不足無く並んでいる。2003年の『こころナビ』に『タナトスの恋』からのソフ倫コードの話、とかまでまとまってるからね。 もちろん、自分の本当に好きな作品については「もっと詳しく書いてよ!」があるんだけど(トノイケを語る時には『ワンコとリリー』も入れて欲しいのだ……)。
 個人的にI've好きとしては、エロゲの主題歌についてもうちょっと概観的な話があると嬉しかったかな。下川しぇんむーやら折戸やら高瀬やら、もちろん単発で名前は出てきてるんだけど、『メイドさんRock'n roll』シリーズ以降のコミックソングの下地にI'veやら『巫女みこナース』で花開くデンパ曲の流れとか(初期のニコニコと「きしめん」とか)、普通の曲でも『Shooting Star』という稀代の名曲で一般アニメの方に殴り込んだあの衝撃の話、みたいのがあると良かったんだけど。

エロゲー文化研究概論

エロゲー文化研究概論

  • 作者: 宮本直毅,エマ・パブリッシング
  • 出版社/メーカー: 総合科学出版
  • 発売日: 2013/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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