マルクス・アウレーリウス 『自省録』

A.D.100年代のローマ皇帝にして、私人としては(この公人と私人の差がある意味ではこの本のテーマのような感じもするけど)後期ストア哲学の体現者、マルクス・アウレリウスが自分のために残したメモ書き集のようなもの。基本的には既存のストア哲学をちゃんと守ろう、という自分への戒めの言葉で、特に「死後に名誉なんぞ残りませんよ」「あんまり人に怒っちゃ駄目だよ」辺りの言葉は幾度も繰り返されてて、逆に言えば本人それがよっぽど気になったんだなあ、的な可笑しみがある。ただそういう風に個人としての筆者を見ていくと、ストア派の持つ「神々の意志やダイモーンの思いのままに、自分が構成すべき歯車の一つとして役割を果たすのだ」という哲学信念は、そういった個人の思いとしての哲学であって、社会的に求められる皇帝としての哲学とはちょっと違うセクターというか、この本一冊が信念をかたくなに貫き通そうとしてるだけに、そこに一周回った悲哀というか、そういうものは感じる。基本的には遠い時代の他人の哲学なので、ぱっと読んでどうこうという本ではなく、誰に勧められたかとかどういう状態で読んだかとか、どういう文脈を勝手に付け加えることで色んな読み方ができる難しい本だったと思う。個人的にはまあ、理想の一つではあるけど、いかんせん今俺ニートみたいなもんだし、その果たすべき役割は信じ切れないよんというところ。

自省録 (岩波文庫)

自省録 (岩波文庫)