石垣島最終日

 朝8時くらいに荷物をまとめて、フェリーターミナルの観光会社に行きます。今日は夕方くらいまで、この石垣島と、あと隣の竹富島っていう島の観光ツアーに申し込んであるのだ。そのツアーの受付では何種類かのマップと何枚か綴りのチケットを渡されて、午前中の石垣島バスツアーの受付場所と時間、午後に竹富島に渡るときの時間とフェリーの乗り場、渡ってからどこにいる人に話しかけるかと、あとここに荷物を預けるけどそれを受け取る最終時間を一気に口頭で教わります。チケットはバスツアーのチケットとフェリーの往路のチケットと竹富島での観光に使うチケットとフェリーの帰路のチケットらしい。うーん……。このおつかいJRPG感……。困ったらここに戻ってきて話を訊きにくればよい感……。コンビニで朝飯を買って食ってから、近くのバスターミナルに行ってバスツアーのチケットを交換します。このバスツアー自体はわりとポピュラーなツアーなんだろうね、フェリーターミナルの目の前にあるバスターミナルの外観にでっかく告知が(かなり昔から定着してそうなフォントで)貼ってあるし。バス乗り場には、まあツアーとか好きそうだなっていう年齢の夫婦ばっかりが待っている。全部で40人くらいかな。
 えー、結構ええ声したオッサンのバスガイドが、何百回繰り返したんだろうなっていう定番のギャグを交えながら軽快に島を時計回りに一周していく。あんまなんも覚えてないな……。川平湾っていう海の綺麗なところがあって、そこをグラスボート、川底がガラスになっている小さな船ね、これに乗って漕ぎ出すと、潜らずにシュノーケリングみたいに魚の泳いでる様子やでかいシャコ貝や珊瑚が見れる。うーむ、ちょっとダイビングしてみたくなってはいるかな。この季節はいうほど海がエメラルドブルーになったりするわけではない。その後に飯食ったか、石垣牛のハンバーグだっけ、あんま石垣牛だからどうのってのはねえな。そうそう、西表島オオタニワタリっていう野草を見て、まあこれが着生植物(岩とかの上からでも全然生きてける)の1つで、なんか全体的にお椀型みたいに茎や葉を広げて、そこに溜まった他の植物の落ち葉から栄養をとったりするやつなんだけど(ほんとに着生植物を詳しく解説されたんだな)(というかちゃんと気にしてみてみると、石垣島のあらゆるところに生えてる)、その新芽はやわらかくて食べられるんですよ、とかいうのを聞いてたんだけど、この日の昼飯にその新芽が島名物の1つとして出てきた。特段味はしなかったが……。
 珍しい椰子の原生林とか、玉取崎展望台とか、一応行くんだけど、まあそんなもんかって感じ。綺麗だとは思うんだけど、これよりもう一段階綺麗な夏があることを何度も強調されて「次は機会がありましたら是非夏に!」を何度も言われると、写真撮る気も失せる。バスガイドがちょくちょく、三線を引いて八重山民謡を教えてくれるんだけど、これはバスガイドがバスガイドになってから自主的に覚えたのか、そもそもこういう三線の新人コンクールみたいなとこに求人が行くのか、こういうの練習すると手当が出たりすんのかとかが気になってあんまり覚えていない。というか、安里屋ユンタとかいう歌、わりと周りの老夫婦とかも知ってるスタンダードナンバーみたいな感じで扱われてたけど、そんな有名な曲? っていうか前に本島の方に行った時も思ったけど、みんな普通に、自分の故郷と関係ないとこの民謡とか好き好んで聴いたりするものなの? 全然知らんわ……。祖母の住んでる北海道岩見沢市で行われている祭り、百餅祭りのテーマソングの「一〜口〜食べ〜れば〜百〜年〜長〜生き〜」みたいな曲しか知らんわ。
 島をぐるっと一周してまたフェリーターミナルに戻ってから、今度は竹富島へ。これはフェリーで10分くらい。15時くらいに着いたら、港になんか浅黒く日焼けしてグラサンの怖そうなオッサンが「cmizunaさま」って書かれたボードを持っている。「え……あの……なんちゃら観光の方ですか……」「あ、cmizunaさん? じゃああの車乗って」つって、車に乗らされる。ビビる暇もなく、なんか如何にも昔の景観を保つように粗い石垣と低い赤瓦の屋根で統一された集落に入り、なんか水牛車の着いてる広場みたいなところに連れてかれて、30分くらい待たされてから、その水牛車に引かれてその辺の集落を一回りするのである。そこでも牛ガイド(牛のケツをぴしゃぴしゃ叩いたりクソの世話をしたりする)がガイドの合間に三線を出して安里屋ユンタを歌ってくれたりする。コーナーリングでその石垣を引っかけそうになるのが楽しい。牛ガイド(バスガイドのコンパチみたいな感じで書いてるけど正しくない気がする)が無造作にぴしゃぴしゃ水牛のケツを叩いてるのが楽しい。石垣は積んでるだけなので訓練中には実際引っかけて崩したりしたらしい。景観保たれてるしかなりのんびりした島(お勧めの移動手段はレンタサイクルらしい)だったので、わりと気楽である。それが終わったのが16時前ですか、帰りのフェリーの最終が17:40で、そこに送迎してもらおうとするとそこに17:10に集まりましょう、というか送迎の予約を入れましょう、とのことなんだよね。それまでの時間に2本くらい送迎バスは出るんだけど。そんで、俺は予め調べてあった観光ガイドで行ってみたいとこが一箇所、喜宝院蒐集館っていう民俗学的な資料を集めてるとこがあるらしくて、そこに行ってみたいっていうので、一応送迎バスは最終の時間を予約しておきました。かなり楽しみにしてたんだけど、行ってみたらあっさり改修中で休館しててさ。もう……。近くに祭りで使われてる広場とかあって、それも実際に見てみたら、なんかコンクリで固めたとこもある普通の場所に祭りのときに使う小屋がある、みたいな感じで、普段は別に何もないんだよね。周りに他に幾つか御嶽はあって、もう観光客向けの案内板もないけど地元民からのお供えは欠かされてないとかいうのはあって、そこの手つかずさみたいのは結構嫌いではない。それから牛車のガイドで「時間があったら是非行って見て下さいね」って言われてた竹富民芸館っていうとこがあって。なんかこの島の伝統織に五四っていう柄があって、これは「いつの世までも」っていって、戦地に赴く男へ女が織って贈ったとかいう話なんだけど。それを今でも織っているのが見られるらしいっていうので、お勧めがあったのね。行ってみたら、特に見るとこはなかった。織ってるオバサンとかはいるんだけど、普通にラジオ聴きながら一心に織ってるから、じろじろ見る感じじゃないし、展示もほぼないしミンサー織を売っているわけでもない。なんか、数年前に知り合いの女の子がこの島に旅行に来たことがあって、そのときにお土産に箸置きかなんかをもらったんだけど、なんかこの五四柄とかいう女の子が贈るのにうってつけのお土産があるのにそれを選ばなかった辺り、妙に警戒心を抱かれていたんだな、っていうのを再確認している。それだけの場所だった。それだけ見たら、もう他に行って楽しそうなところはないんだよね。30分で見終わっちゃったよ。しょうがねえから送迎バスをキャンセルして、歩いてフェリー乗り場まで行きました。全然間に合う。近くの観光センターみたいなところに寄って見学しても間に合う。ここら辺でトイレに行ったら、なんかそこの鏡を見て気がついたんだけど、数日前からの日焼けで顔の皮がむけ始めていて、顔面中がなんか白くひび割れているみたいになって、ちょう気持ち悪い。自分で「こわっ!」って思った。17時のフェリーで石垣島に戻って、そのままバスに乗って空港へ。
 空港で飯食ってお土産買い足して、地ビール飲んで20:30まで時間潰してから飛行機に乗って関空に飛びます。寒いね。こんな寒いとこで、なんで俺は顔面がひび割れてるんだろうと思うよね。結果的にこれは、数日後に学校に行ったら、「顔が赤いけどまさか2月で日焼けしてると思わなかったので、一杯引っかけてきてから学校きたのかと思いました」とか言われている。まあ無職力の高い旅行だったな。

石垣島4日目 棒を振って球を叩くスポーツについて

 朝、わりと10時過ぎまで宿でぼんやりしてから、なんとなくで球場に向かいます。というか、球場を通り越して八重山そばの店に行きます。お昼しかやってないはずの店にいきなり行って間に合うという。角煮旨かったけど、やっぱりそばはあんまりぴんときません。ちょうど野球の練習の方もランチタイムになってるんだけど、あの、俺の好きな福浦と、あとサブローのベテラン2人は2軍の別メニュー調整で、毎日みんなのランチタイムに出てきてバッティング練習するのね。それにちょうどいい時間なので2軍の方の球場に行きます。福浦いますねえ。サブローもいる。福浦のバッティング練習の力感というか、体全体を伸ばしてフォームを確認しながら打つ感じ、ちょう好きなんだよね。右打席でバランスを見る練習とかしてて、なんかもうこれで、実際に試合で見る福浦のスイング数よりよっぽど見てる感じしてとても楽しい。荻野貴やら大松やらのスイングを見てから1軍の方へ。ここで一回、寒くなってきたからホテルにジャケットを取りに行ったはず。なんかねえ、初日の27度のせいで感覚がおかしくなってるけど、2日目の雨以降は普通にジャケットがあった方がちょうどいい程度には寒いはずなのに、俺はずっと普通にパーカーだけ着てあちこち行ってるんだよね。民宿から球場まで歩いて大体30分、それを歩いた直後とか飯食った直後とかは体が温まって全然パーカーでいいんだけど、ちょっと腰を下ろして野球を見始めるとけっこう寒いね。ジャケットとって戻ってまた野球を見始めます。加藤翔平がけっこうスタンドに放り込んでて、今年いいのでは? とちょっと思っています。ライバルは岡田とか伊志嶺とかじゃなくて清田角中方向なんだろうか。今年楽しみだな、と思っている(数日後に始まるオープン戦ではあんまりいいとこはない)。伊志嶺が目の前で守備練習をしている。ゴロをグラブのどこに収めるかという練習をずっとしてて、そういう細かいとこをプロが気にしてるのを見れるのは楽しい。気がついたら17時前に練習が終わっている。なんか正しくは、ホテルまでタクシーで戻る選手たちを見送りながらサインを貰うのが良さそうなんだけど、あんまりぴんと来ないので、歩いて民宿まで戻ります。
 前の日だっけ、西表島から帰るときに確認した不在着信の中に、例の星空観察ツアーのがあって、まあその日の中止をお知らせするやつだったんだけど、そのときに今日の予定も訊かれて、「じゃあ晴れてたら行きます」「予約入れときますね」なんつってたのね。それの集合が20:30かな。取り敢えずその辺のコンビニとかでイカフライとかタコライスとかのお総菜やらカップ泡盛を買って、でおつまみ分だけ残して20時くらいになった時点でガラケー見たら、また不在着信が入ってるのね。というか、この島に来てからすごい着信を無視し続けてる気がする。かけ直して訊くと今日も雲が出てきて中止らしい。結局、初日以外は全部中止だったな。「cmizunaさまは今夜が最終日でしたのに、天気の都合とは言え申し訳ございません」とか言われてるんだけど、俺はそれはそれで出かけなくて済むし手元にある泡盛をすぐ飲めると言うことで、変に声が弾んでしまって不審がられている。結局泡盛を飲んで塩せんべいを食って寝たら朝4時くらいに起きた。喉が渇いている。星空観察の帰りになんか飲み物買ってくるかーと思って、泡盛以外の飲み物を買ってこなかったのだ。民宿には門限的なものはあるし水道水は飲用禁止である。飴を舐めて喉が渇くのを抑えながら夜明けまでの時間を潰すのである。

石垣島3日目 いりおもてみずなねこだにゃん

 港に朝7時過ぎに着いて、8時出航、西表島行きのフェリーを待ちます。10分前には乗り場にいて下さいねって言われて、15分前に行って既にできてる列に並んだら、それは別の島行きの列で危なかった。そんで西表島行きフェリーの列の先頭に並んで、フェリーの前の方の窓際の席を確保したんだけど、座ってしばらくしてから船員さんに「前の方ちょう揺れるから、後ろの方に移って下さい」なんつって、後方通路側の席に移って、フェリーの中のTVをぼんやり見る羽目になったのである。結果寝てたしな。だいたい40分くらいで着きます。着いた西表島の港に、俺が頼んでおいたガイドさんがいる。おねーさんとオバサンの間くらいだ。トレッキングですっぴんだから、ちょっと補正が分かんない方に効いてるんだよな。
 西表島、ジャングルと川と滝が多い島で。カヌーとかカヤックでその川下りをしながらマングローブを見たり滝を見たり、あとはシュノーケリングとかするのがメジャーな観光体験なんだけど、まあこの季節だし、あと俺、数年前に耳の病気やってるから、一応潜ったりするのに診断書要るらしくてめんどくさいので、そういうのないのないかなーっていうのでガイドさん探してたら、島歩き専門のガイドっていうのがあって。なんか丸一日(9時17時)昼食付き装備レンタルで案内してくれて1.1万円とか言ってんのね。まあ悪くないかなと思って。そんで公式HPからスケジュール見てみたら、まあ季節的なこともあってわりとスカスカで、行き先とかも自分で選べるらしいけど、選びたいところも特にない。なんなら西表島に人が許可なく入れるかどうかすら調べるまで知らなかったからな。それに申し込んだのも1ヶ月前、なんかガイドブック見て一番有名な滝を見に行くやつとかにして、HPのフォームに入力して送信すると、403が帰ってくる。アクセス権限がない……? 俺が1人だからか……? 1人での参加は権限がないのか……? 日を改めて再送信しても403が返ってくるので、直接メールで「1人での参加も問題なければ……」って送ったら普通に受理された。たまにあるよね、個人のHPで上手くフォームが送信できないやつ。まあしかし、その時点でもうこのままだと、オバサンだかおねーさんだかみたいなガイドさんとサシで丸一日を過ごすことになるってのは分かってたわけで、これ、どうすっかなあという感じ。
 まあ実際に会ってみたらそこそこ人当たりも良くて。最初は港から車に乗せてもらって、滝の近くの山道の入口まで連れてってもらうんだけど、そこまでに最初に話すこと、車が通る橋から見えるマングローブの仕組み(潮の満ち引きとか)とか、道路の下にあるヤマネコ用のトンネルとか、通る集落の歴史とかは、相手が誰でも取り敢えず言ってる鉄板のガイドだろうから、ふんふん言いながら聞いて、ヤマネコの正確な生息数とか適当に質問を返したりしてるんだけど。あとまあ偶然、その辺の電線にカンムリワシが止まってたりはしてたか。
 そうこうしてるうちに山道の入口に着いて、上下のツナギとトレッキングシューズを着せられて山道に入っていきます。なんか俺の選んだコース、沢渡りコースとか言って、川とかを渡って膝下は濡れるから、下は乾きやすいスウェットとか着てきてね、と事前に言われてるんだけど、あのさあ、こう言われて、沢を渡るっていうの、どういう情景を思い浮かべる? まあ有名なパズルの川渡り問題みたいのを思い浮かべるよね、なんつうのかな、そう、横断だよ。まあそんで山道入って最初にあるの、道っていうか、道に沿って流れてる小川? っていうか、川という名の道? というか、縦断、なんだよね。花も嵐も踏み越えないけど小川は踏み越えるよ、何故ならそれが道だから。その辺りまでは、靴に水は別に染みこんでこないんだけど、その次にあるのがもう

だよね。水、きれいだなーって。あのさあ、橋とはいわないけど、なんか飛び石みたいのは、ないの? 「俺、たまこが好きだ!」って言ってボチャンって尻から落ちるやつはないの? 「あー、これ、ジャブジャブいっちゃった方がいいやつですか」「あーもう、ジャブジャブいっちゃって下さい!」じゃぼん。膝まで浸かっている。沢渡りも沢渡り、まこぴーもびっくりなくらいの本格的な沢渡りでやんの。水ぬるみ草木は萌え、春が来て、ずっと春だったらいいのに……(言うほど水は冷たくはない)。
 山道というか獣道だよね、沖縄県だかがピンクのリボンを巻いている樹の横は一応道ということになってる、くらいのやつ。季節的に虫や動物はあんま見えなくて(そういやトビハゼいたな)、西表島一般の豆知識もここまでの自動車の中で喋っちゃったから、もう植物の解説と、あと出身地あるあるみたいなよくある雑談をするしかないんだよね。俺は北海道の山で生水に触っちゃいけないというエキノコックスあるあるカードを早々に切っている。相手の、自動車免許をとる際に、西表島でとれないのも当たり前で石垣島でとるのもアリだが沖縄本島でとったところ、沖縄で唯一の踏切が車学にあったっていう話はちょっとおもしろいなと思っている。でも、若干その話に相手が夢中になりすぎて、聞こえている鳥の鳴き声について訊き逃した。西表島にフリートークをしに来たわけではないからさ……。植物の話は、新芽が食べれる植物かどうかと、着生植物(蔦とかで他の樹に絡みついて伸びていく樹)の話と、熱帯雨林特有の板根の話をすごいされる。なぜならすごいからだ。


 というか、思いのほかマジな登山だったよ。これが研究室の遠足だったら数人から教授が谷底に落ちてると思う。普通に両手使ってゆっくり降りましょうとか言ってるレベルだしさ。トレッキングシューズの滑りにくさに感動を覚える。これでも一応、目的地の滝を下から見上げるコースっていう簡単な方を選んでるはずなんだけどね。当日の朝に小雨が降って、「ちょっと滑りやすいんですけど上から行くコースもありますよ」「いや……下からで……」「では安全に下から行きましょう」「ご安全に……?」とかいうレベルの話だしさ。あと喋りながら登山するの疲れる。完全にネタがないときの出身地トークで俺は、北海道の料理は素材頼りで何も名物はないみたいな、誰にでもしてるどうでもいい話してるしさ。そうこう言ってる間に、午前中の目的地、ピナイサーラの滝に着きます。

 なんか、ガイドブックやwikipediaに載ってる写真と違うな? この時期は雨が多くて水量が多いんだそうだよ。そして風が強くてものすごい水飛沫が飛んでる。眼鏡が曇る。しばらくぼんやり滝を見ながら休憩をする。「これは滝行はできないっすねー」「下に行くまでに怪我しますね」なんつって、俺はアホの子みたいになってる。まあアホの子と言えば、このガイドさんが時折投げてくる「これ、なんだと思いますか」っていうクイズに何一つ正解を返せていないからね。樹を伝うシロアリの通路とかカニの巣とかちょう小さい柿の実とかキクラゲとか、何一つ答えられていない。というか、考えられるほど脳に酸素がまわっていない。お茶を飲んで休んだら同じ道を通って戻ります。ちょっと違うのは、潮が満ちてきてる分だけ川の水量が増してジャブジャブ感が上がっているところね。ガイドさんは、水に浮かんで種を遠くへ飛ばす木の実について写真を撮っているんだけど

(あとから写真をもらえる)、俺は同じ場所に立って、自分のジャブジャブ感の高まりに呆然とした写真を撮っている。

 来た道を戻って一旦車に乗って、閑散としたフェリー乗り場(島に幾つかあって、今日はここ行きのは休航してる)で、そのガイドさんと二人でお弁当をつついている。黄緑色のツナギを着たまま、ご飯に関するフリートークが続く。風はびゅうびゅうと吹いていて、波が打ち付けているのが俺は気になっているんだけど、ガイドさんは全然気にしていない。この時点でだいたい13時くらいかなあ、このガイドさんと会ってから3時間か4時間くらいでしょう、俺ってだいたい誰に会ってもそうなんだけど、3,4時間くらい喋ると、もうそこでわりと疲れちゃうっていうか、黙ることについて気にならなくなるんだよね。ぼんやりしながら車に乗せられて、午後のコースの開始地点に連れて行かれます。さあ行こうというところで、なんだ、レガースガードみたいのを渡されるんだ。「これがあるのとないのとで、全然青あざの出来方が違うので」え? と思って。午前中でかなりハードな登山をしてきたつもりだったけど、こっから先、じゃあ、なに? と思って。まず入るところがマングローブの原生地。マングローブって何かっていうと、海水が潮の満ち引きで上がってくるから塩水で普通の植物は住めないところに変な奴らが住んでるってものなんだけど。そのマングローブの原生林にペットボトルが捨てられてて、「こんなところにもポイ捨てが……」って思ってたら、ふとガイドさんがそのペットボトルを拾って見せてくれたらそのラベルは中国語で、なんならその海水の満ち引きでここまで流されてきたものらしい。俺は「へーそうなんだ」って顔してるけど、ちょっと話として出来すぎじゃないかな? という感じもしている。最初に流れ着いてきたとこまではほんとっぽいけど、その1個流れ着いてきたゴミを、色んなガイドさんが後生大事にこのエピソードを話すためにここに置いたままにしてあるんじゃないかな? と思っている。そのままの勢いで代々の島中のガイドさんに大事にされて、最終的にピナイサーラの滝ばりの信仰の対象になっていって欲しいと思う。ここのマングローブ、オヒルギの変さというのは、地中で乏しくなる酸素を吸収するために根っこの一部を地中に出してるというもので

こんな感じ。「どうですか」って訊かれても、正直な感想は「土人形が一杯いるみたいで寂しくなくてよい」なんだけど、この感想はちょっとおかしいなと思って「ふしぎですねー」とか言っている。
 ここからちょっと進むと、もう完全に川を踏破して進んでいく道、だからこれを道と呼ぶのはどうかと思うけど、そんなところを歩いて行くことになるんだね。改めて与えられるルールが「人間、どうしても見えやすい、ちょっと高くなってる石とか川から出ている石に足を置きたくなるものですが、それだと滑ったときに高さがあって危ないので、もう濡れるのは気にしないで、どんどん川底を足で探って踏み入れて下さい」だからね。本能への挑戦……。実際はそんなこと気にしなくても、もうかなり疲れているから、足が上がらなくて、ほっといてもどんどん下がっていく方に行くし、川底は思ってたより深くなってたりして気がつくと両膝同時に川に浸かってたりするからね。おもらししたみたいで気持ちいい。うそだよ。なんか知らんけど着生植物についてやたら細かくレクチャーを受けて、西表島の中で妙に着生植物に詳しくなっている。そんなこんなで目的地がゲータの滝、これです、どん。

 なんかね、岩が直線的になっていて(堆積岩)、滝がものすごい人工的、つうかテーマパーク感ある。これが自然物かあ。かなり疲れて言葉少なな俺に、近くにあった炭鉱の歴史の話とかをしてくれているガイドさんはえらい。また同じ道を帰ります。レガースガードがちょくちょくズレ下がってくるのをちょくちょく注意されて、めんどくさいなーと思いながら直したり直したふりしてそのままにしてたりしてたら、途中で思いっきり膝を石にぶつけて、1週間くらいしてもまだちょっと痛い。車に戻って、石垣島まで戻るフェリー乗り場まで送ってもらいました。そうそう、西表島って内陸の方はほとんどケータイの電波入ってなくて、このフェリー乗り場でガラケー見たら4通くらい不在着信入ってて笑った。D論の製本とか、今日の星空観察ツアーが中止になった旨の連絡だの、あと泊まってる民宿の人が清掃に部屋に入っていいかどうかを確認する電話だったらしい。初日にしくじってるこのオッサンを更にしくじってて、もう笑うしかない。A&Wルートビア飲んでこっそり帰った。

石垣島2日目 バレバレバレンタイン

 朝9時くらいに起きて、今日も今日とて球場に向かいます。今日も今日とてアホみたいに晴れている。まあ回り道をして、昨日食えなかった八重山そばの店に行くんだが。八重山そば、そば粉を使わない(とれない)で小麦粉を使った麺とかに特徴があるんだけど、そのツルツル感に薄味のスープ、それにソーキっていうのが基本なんだけど、個人的には薄すぎかなー。その後にも別の店で1回食ってるけど、いまいちぴんとこず。野球はこの日も練習試合。まだ開場もしてなかったのでぼちぼち練習会場を見てるんだけど、ブルペン面白かったね。松永益田イデウン関内大嶺涌井という辺りがバンバン投げてる。涌井さんがちょうど投げ終わってトンボかけてるのとか楽しい。ほんと、みんな今年怪我しないで頑張って欲しい。
 11時に開場して、なんの日除けもないバックネット裏に陣取ります。場内アナウンスでは熱中症に気をつけて水分を摂りなさいとのこと。2月14日、バレンタインデーのことである。お告げに従って三ツ矢サイダーやらポカリやら、あとさんぴん茶ね、ジャスミンティー、沖縄では普通のお茶扱いのやつ(実際は台湾産らしいが)のペットボトル、球場内なのに普通に150円で売ってるのでめっちゃ買ってはめっちゃ飲んでるね。この日はロッテが先攻でみんなビジター用の黒いユニフォームを着ている。黒ユニのリーンちゃんがかわいいなあ。前の日と打って変わって打撃戦になりました。そういうの、前の日に「この時期はピッチャーの方が仕上がりが早いから投手戦になるもんなんだよ」とか言ってた俺とか周りの自称野球通のオッサンとか、どんな顔していいか分かんなくなるからやめてほしいよね。期待の新人の平沢はひどいエラーしてるし大丈夫なのかしらん。そんで5回くらいだったかな、それまで石垣島着いてからずっと晴れてたのに、急に雲が出てきて、風が強くなって、キャッチャーの江村がファールフライを落として、近くのガキが「雨雲見つけた!」つって、そしたら周りの人が急に屋根のある席に避難して、俺は「え……?」と思ってたら急に強い雨が降ってくんの。そしてちょうど1イニングくらい過ぎたら雨はやむ。傘をさしてる間にロッテは点を取られて同点に追いつかれている。なんか、ほんと南国の雨の降り方みたいだ。その後もまあグダグダな試合で、なんか興味も無いのに親に連れてこられたガキが通路を全力ダッシュしまくってるし、なんだろうなこれという感じ。結局6-7で負けている。試合後は、ロッテと台湾のチームから5人ずつ出てきてのサイン会、俺の整理券ではイケメンホームランバッター(送球に難あり)根元氏のサインがもらえたのだ。そのまま台湾の選手のサインももらえるんだけど、しかし誰だ……? と思っていると、あれだ、前に横浜DeNAにいて台湾代表にもなった(そしてポジハメくんの元ネタになった)王溢正らしい。へー、日本に来てたんだーって感じである。っていうか今調べたんだけど、台湾の外野手にいた陽耀勲って名前、前にソフトバンクにいた、陽岱鋼の兄弟だったような、でもソフトバンクにいた方ってピッチャーだったような……? と思ってたら、外野手転向して台湾代表になってるのね。
 なんだかんだで17時半前くらいに球場を出るんだけど、そっからまた港に行かないといけないんだよね。正確に言うと、港にある観光会社に行かないといけない。その、前の日に行った星空観察ツアーっていうの、実はなんか滞在中のいつ行ってもいいってやつなのね。送迎バスの値段だけかかるけど、それ以外は1回だけ行っても毎日行ってもいい。そんで、なんか前日に受けた説明だと、行かないっていう日は電話してねだか、向こうから電話が来るんだったかそんな感じで、で俺は連絡先を聞き忘れているし、実際にここまで電話はかかってきてないので、その観光会社の窓口が閉まる18時だか18時半だかまでに直接行かないといけないような気がするんだ。どうにか18時前に観光会社に着いて事情を説明しようとすると、向こうから「cmizunaさまですか?」って訊かれて、「ん?」って視線を上げて窓口の人を見ると、そういやなんか聞き覚えのある声(cmizunaさんは人の顔は分からないけど声優で鍛えた音感が付いているぞ)をした人で、というか、昨日、夜の畑の真ん中で星空を解説してくれたおねーさんなんだよね。牛糞の香り漂う畑の真ん中で、冬のダイヤモンドの見つけ方を俺に教えてくれた人なんだよね。まあそこで連絡先を訊いて、ついでに今日は小雨降ってるから行かないよ、という話をして任務達成である。
 近くのお土産物やさんに行きました。学校の後輩やらなんやら、いくつか買わなくちゃいけないとことかある。全国で野球を観るたびに、全然野球に興味ない後輩に野球チームグッズを買っていくブーム用に、キーホルダーとかも買ったし。あと特に問題はシュシュだ。シュシュの話ってしたっけ? してなかったから今した。この後輩用に俺もシュシュを買わないといけない。そんなのもあって、色々探してシュシュと、ヤシガニ煎餅と、あとなんか、石垣島のある村に伝わる祭りの記録映像DVDを買いましたね。このDVD、パッケージがペイントで描いた絵みたいなしょっぱい感じなのに、22分で3650円するんですよ。マジかよと思って。ちょう売れ残ってたから買った。隣に「平成二十年 稲の一年」とかいうのもあって、それも似たようなノリでかなりグッとくるんだけど、稲作の一年が22分に収まってるってのがかなり信用ならなくて買えなかった。それを持ってほくほくで近くの定食屋で飯を食いましたね。ミミガーとかもずくとか刺身とか、この辺の名物ひと揃いで2千円くらいだったかな。飛んできて刺身に止まった蠅がでかかった。

『鳶魚江戸文庫10 公方様の話』

 明治3年生まれで江戸幕府についての文献を読み解くことで知られた三田村鳶魚の、これまでの将軍の女好き事情を暴露したもの。江戸時代には幕府を開いて神様扱いされていた徳川家康に始まり、各将軍の大奥事情を、まあ下卑た野次馬根性で紐解いていくんだけど、そういう動機が完全に庶民感覚なんだけど、前提知識とかそれこそ"将軍"に対する元々のイメージ、それにそういう野次馬根性の対象になること自体とかが、妙に江戸時代に対する距離の近さを感じる。まあそれこそこの著者の生まれる数年前まで"将軍"というものが実在してたわけで、絶対的な距離は確かに近い、"歴史"になる前のことなんだなあ、という感覚がちょっと不思議。

公方様の話 (中公文庫―鳶魚江戸文庫)

公方様の話 (中公文庫―鳶魚江戸文庫)

石垣島1日目 ここが夏の真ん中さ!

 石垣島、最初に行こうと思ったのはいつですかねえ。俺の好きな千葉ロッテがこの時期にキャンプするようになったのは8年前でだいぶ定着してきてて。そうか、数年前に沖縄に行ったときに、最後に空港で買ったお土産がうっかり石垣島ロイズで、これは行けってことか……? って思ったのがたぶん最初だ。本格的に行こうと思ったのは1/15に急に思いついてロッテのキャンプを見に行こうと思ったときで、このときには、俺の国内旅行好きの理由であるアイモバは終わるのは決まっていた気がする。というか正確には終わるのは決まっていて、それで「……積み残しは一生かけて、水本さんと巡っていけばいいじゃん」というのを決めた後だったような気がする。まあとにかく、キャンプを見に行こうと決めて、大学生協の書店でガイドブック2冊買って、大体やってみたいことを詰めて何日かかるかを計算して、飛行機とって宿とって、っていうのがまあ半日あればできちゃうのね。それが大体、実際に出発する1ヶ月前ですか。まあ楽しみにしてるんだかしてないんだか、みたいな感じで1ヶ月を待ちます。
 出発前々日くらいかな、睡眠時間の調整に失敗してることに気がついて。なんかね、初日は朝10時くらいに関空から飛ぶから、朝6時くらいに家を出ようと思ってたんだよね。全然だよ、数日前から風邪は引いてて、もう前の日は夜10時くらいまで学校にいて、そっから家に帰って映画一本観て、ぼんやり本を読んで、結局寝ないで朝6時に、その読みさしの本(残り50Pくらい)をポケットに入れて家を出ました。その本は行きの京阪で京都を出ないくらいでもう読み終わっちゃって、ずっと旅行カバンに封印されていたね。
 この季節の石垣島、だいたいジャケットを羽織るくらいでちょうどいい、って言われてたんだけど。なんか数ヶ月前に北海道に行ったときに、実家でジャケットとコートを交換するみたいにして帰って来ちゃってて、家にジャケットっぽいものがないんだよね。で、モッズコート、去年一年くらい着てなかったやつ(ムーンライト、スターリースカイ、ファイアーバード、カーキ色のモッズコート)、これがフードを外せるやつだったから外すと、やや裾の長めのジャケットに見えるかなーくらいの感じで、それを着ていったんだ。で、石垣島に着くよね。たいよう。ひざし。てつやあけ。あのねえ、27度。ジャケットどころかその下のパーカーも要らない、もう半袖Tシャツで全然問題ないのね。ここが夏の真ん中か……!
 空港のバスで宿の近くまで行って、取り敢えず荷物を預けたいんだけど、まあ今回泊まるの民宿で、そして民宿の受付は誰もいない。チェックイン15時で、この時点で14時だからしょうがねえんだけど。でもこっから俺、球場に行きたいんだよね。この日と次の日、なんか台湾のチームが来て練習試合があってさ。それ、途中からでもいいから観たいんだけどさあ……。しょうがねえから、その数泊分の荷物を入れたキャリーバッグを引き摺って球場に行こうと思うわけ。歩いて30分くらいらしいんだけどさあ。荷物は重い。そして予想外の暑さね。徹夜明け特有の変な汗が出ている。そして知らない道、キャリーバッグを引いていくの、すげえめんどくさいな……。それで地図を見ながら歩き出すんだけど、なんかね、登り坂なんだ。どのくらい登ったらいいのかも分かんないし、最悪、練習試合って一応チケット売ってるものなんだけどそれが売り切れてるって可能性もあるわけじゃん。あんまテンションの上がらないまま登り始めるんだ。すると、コンビニがあって。ココストアって言うんだけど。コンビニ、あるんだって思って。なんか、離島だから、そういうのあるかどうかよく分かんなくて、一応事前に地図上で調べてマックスバリュがあることは知ってたから、究極的に飯を食い逃したら(石垣島、わりと予約必須な焼肉屋とか、あとノリがキツそうな島唄居酒屋みたいの、あと昼から材料がなくなるまでしかやらない八重山そば屋しかないから、わりと深刻)そこに駆け込もうとは思ってたんだけど、それには及ばず、意外と色んなところにコンビニがあるんだね。その登り坂の途中にあるココストアでアイス買って食ってる。ここが、夏の、真ん中か……!
 なんとなく球場っぽいものが見えてきて近寄ってみたら、そこそこ人が入っている。買ったチケットの通し番号が2000番くらいだった。球場自体は8000くらい入るみたいだけどね。取り敢えずチケットを買って外野の芝生席に腰を下ろしたのがだいたい5回くらいだったかな。わりと見始めたところでロッテが先制点をとる(ホームベース上のクロスプレーで、あんまブロック厳しくなくて、これが今年のルールなのか、というか台湾もルール同じなのか? とか思った)くらいの感じ。サイドスローの黒沢が良さそうだった。勝ってたね。台湾からの応援団もそこそこ来てて楽しそうだった。
 終わったのが16時くらいかな。練習試合だからもうちょっとテンポいいかと思ったけど、投手戦の割に3時間みっちりやってた。何はともあれ、だからこの石垣島、飯をちゃんと確保したいってのがあるわけ。普通の飯でいいんだ、旅行先で食う、まあぼちぼちの飯ね。そんで、帰るべき道とはちょっと違った方向にまた30分くらい歩くと、わりと有名な八重山そばの店があるってんでこれが20時までやってるはずだからってんで行ってみたら、まあ終わってるよね。そっからまたバスに乗って、コンビニでおにぎりを確保してから民宿へ。さすがにオッサンがいて。まあチェックインするんだけど、「今空港に着いたんですか?」「いや、昼過ぎに着いて、一旦ここ寄ってから、野球観てました」「いいですね、自分も行きたかったんですけど、cmizunaさんが16時にチェックインって書いてあったので」え? と思うんだ。時計を見ると16:45くらい。なんか、その、1ヶ月前に宿を取ったときにチェックイン時間を入力する欄があって、そこに16:00って入れたらしいんだよね。普段泊まるようなビジネスホテルだと、そこに入れる時間って全然参考くらいでいいし、たぶん1ヶ月前の俺も、到着直後にどうせ荷物置きにくるだろうし、まあ適当でいいだろうくらいのつもりで入れたの、完全に忘れてたよね。その結果がこの、京都人を的確に殺すような嫌味じゃん。うわあ……と思って。民宿という、主人との関係がいちばん大事な形態の宿において、初っぱなにこれをかましてしまいましたか……。俺は……ロッテファンにもかかわらず、うっかりでオッサンにロッテの試合を観てもらう機会を奪ってしまったのか……。年に2回しかない機会を……。つらい。取り敢えず宛がわれた部屋は二人部屋で、ここにはシャワーが付いてる部屋とのことなのだな。良かったと思って。ホテルを取った時点では、1人部屋の人は共有のシャワーを使ってね(ちなみに石垣島に銭湯はありません)という話(それは覚えてた)だったので、前日に念入りに陰毛を剃っておいたんだけど、余計な心配だったようです。
 部屋に入っておにぎりを食って、さすがに仮眠を取って20時にホテルを出て、港の繁華街に行きます。なんかねえ、この日、その練習試合もあるせいで、花火大会や出店があるみたいで。賑やかな中、俺はちょっと離れたところにあるベンチに座って人を待ちます。なんだ、星空観光ツアーというのに申し込んであったのだな。なんかね、石垣島のあるあたりって、そもそもビルの灯りが少ない上に、気流の影響を受けにくくて、星が日本で一番綺麗に見えると言われているらしいのだな。そのツアーって言うのは、その中でも星の見えやすい畑の真ん中に専用のスペースを用意して、寝っ転がりながら解説付きで星空を観察できるというものである。なんか、仮眠をとる前はあんなに昼間晴れてたのに、こうしてみたらかなり曇ってきてるし、あと花火で全体的に煙くてちょっと不安なんだけど、そこで待ってたら案内の人が来て、なんかオバサンの自家用車みたいのに乗らされるんだ。俺の他にもう1人、少しだけ日本語が喋れる中国人と、あとオバサンね。話では送迎バスが来るとのことだったのに、なんだこれ? と思いながら言葉少なに車に乗ってるわけ。街から離れて、その畑に入っていくらしいんだけど、なんか大きな道路から畑に入っていく、辺り真っ暗な角のところに「津波被害慰霊碑はこっち」みたいな案内板があって、「こええ……」と思い、そっから完全に農道に入ってもう肝試し(夏の真ん中だからな)感満開のところで急にオバサンが車を駐めて、「誰もいないわね〜ここじゃないのかしら〜?」とか言ってるの。それは俺も知らない。「え……iPhoneでマップ出しますか……?」「それで分かるのー?」「現在地くらいは……」「あ、いた! きっとあれだわ!」なんつって、畑の真ん中のプレハブみたいなとこにつけてくれるんだ、まあ、実際そこだよね。そこで準備が整うのを待って、まあ他ルートで来た客も何人か集まって、星空観察が始まります。
 雲の隙間に見える星を説明されたり双眼鏡で眺めたり。確かにえらい星が綺麗に見える。ちょっと畑の堆肥の匂いが漂っている。その、星がちかちか瞬かないっていうのが、気流の影響の少ないって意味らしくて。確かに綺麗にしっかり見える。「カシオペヤ座から北極星(にぬふぁぶし)の見つけ方って、覚えてるでしょうか、そこの方、覚えてそうですね」なんて指されている。「なんかを伸ばしてなんか7倍くらいするんじゃないですかねえ」「惜しいですね、5倍です」なんつってさ。まあ、1人で星空観察ツアーに参加してたら天文ファンだと思われるだろうよ。実際は、現実の宇宙には全く詳しくないただの無職だけどな。天体望遠鏡を使って月を見せてもらった。もうすぐ上弦の月らしい。ものすごく近くに見えて、クレーターまで見えてしまうと、あんま怖くなくなって、「もしかして、こいつ、あんま、俺のこと、狙ってないな?」と思う。幽霊の正体見たり枯れ尾花、月影の正体見たり月兎である。そのうちブログのタイトルを変えよう。