石垣島3日目 いりおもてみずなねこだにゃん

 港に朝7時過ぎに着いて、8時出航、西表島行きのフェリーを待ちます。10分前には乗り場にいて下さいねって言われて、15分前に行って既にできてる列に並んだら、それは別の島行きの列で危なかった。そんで西表島行きフェリーの列の先頭に並んで、フェリーの前の方の窓際の席を確保したんだけど、座ってしばらくしてから船員さんに「前の方ちょう揺れるから、後ろの方に移って下さい」なんつって、後方通路側の席に移って、フェリーの中のTVをぼんやり見る羽目になったのである。結果寝てたしな。だいたい40分くらいで着きます。着いた西表島の港に、俺が頼んでおいたガイドさんがいる。おねーさんとオバサンの間くらいだ。トレッキングですっぴんだから、ちょっと補正が分かんない方に効いてるんだよな。
 西表島、ジャングルと川と滝が多い島で。カヌーとかカヤックでその川下りをしながらマングローブを見たり滝を見たり、あとはシュノーケリングとかするのがメジャーな観光体験なんだけど、まあこの季節だし、あと俺、数年前に耳の病気やってるから、一応潜ったりするのに診断書要るらしくてめんどくさいので、そういうのないのないかなーっていうのでガイドさん探してたら、島歩き専門のガイドっていうのがあって。なんか丸一日(9時17時)昼食付き装備レンタルで案内してくれて1.1万円とか言ってんのね。まあ悪くないかなと思って。そんで公式HPからスケジュール見てみたら、まあ季節的なこともあってわりとスカスカで、行き先とかも自分で選べるらしいけど、選びたいところも特にない。なんなら西表島に人が許可なく入れるかどうかすら調べるまで知らなかったからな。それに申し込んだのも1ヶ月前、なんかガイドブック見て一番有名な滝を見に行くやつとかにして、HPのフォームに入力して送信すると、403が帰ってくる。アクセス権限がない……? 俺が1人だからか……? 1人での参加は権限がないのか……? 日を改めて再送信しても403が返ってくるので、直接メールで「1人での参加も問題なければ……」って送ったら普通に受理された。たまにあるよね、個人のHPで上手くフォームが送信できないやつ。まあしかし、その時点でもうこのままだと、オバサンだかおねーさんだかみたいなガイドさんとサシで丸一日を過ごすことになるってのは分かってたわけで、これ、どうすっかなあという感じ。
 まあ実際に会ってみたらそこそこ人当たりも良くて。最初は港から車に乗せてもらって、滝の近くの山道の入口まで連れてってもらうんだけど、そこまでに最初に話すこと、車が通る橋から見えるマングローブの仕組み(潮の満ち引きとか)とか、道路の下にあるヤマネコ用のトンネルとか、通る集落の歴史とかは、相手が誰でも取り敢えず言ってる鉄板のガイドだろうから、ふんふん言いながら聞いて、ヤマネコの正確な生息数とか適当に質問を返したりしてるんだけど。あとまあ偶然、その辺の電線にカンムリワシが止まってたりはしてたか。
 そうこうしてるうちに山道の入口に着いて、上下のツナギとトレッキングシューズを着せられて山道に入っていきます。なんか俺の選んだコース、沢渡りコースとか言って、川とかを渡って膝下は濡れるから、下は乾きやすいスウェットとか着てきてね、と事前に言われてるんだけど、あのさあ、こう言われて、沢を渡るっていうの、どういう情景を思い浮かべる? まあ有名なパズルの川渡り問題みたいのを思い浮かべるよね、なんつうのかな、そう、横断だよ。まあそんで山道入って最初にあるの、道っていうか、道に沿って流れてる小川? っていうか、川という名の道? というか、縦断、なんだよね。花も嵐も踏み越えないけど小川は踏み越えるよ、何故ならそれが道だから。その辺りまでは、靴に水は別に染みこんでこないんだけど、その次にあるのがもう

だよね。水、きれいだなーって。あのさあ、橋とはいわないけど、なんか飛び石みたいのは、ないの? 「俺、たまこが好きだ!」って言ってボチャンって尻から落ちるやつはないの? 「あー、これ、ジャブジャブいっちゃった方がいいやつですか」「あーもう、ジャブジャブいっちゃって下さい!」じゃぼん。膝まで浸かっている。沢渡りも沢渡り、まこぴーもびっくりなくらいの本格的な沢渡りでやんの。水ぬるみ草木は萌え、春が来て、ずっと春だったらいいのに……(言うほど水は冷たくはない)。
 山道というか獣道だよね、沖縄県だかがピンクのリボンを巻いている樹の横は一応道ということになってる、くらいのやつ。季節的に虫や動物はあんま見えなくて(そういやトビハゼいたな)、西表島一般の豆知識もここまでの自動車の中で喋っちゃったから、もう植物の解説と、あと出身地あるあるみたいなよくある雑談をするしかないんだよね。俺は北海道の山で生水に触っちゃいけないというエキノコックスあるあるカードを早々に切っている。相手の、自動車免許をとる際に、西表島でとれないのも当たり前で石垣島でとるのもアリだが沖縄本島でとったところ、沖縄で唯一の踏切が車学にあったっていう話はちょっとおもしろいなと思っている。でも、若干その話に相手が夢中になりすぎて、聞こえている鳥の鳴き声について訊き逃した。西表島にフリートークをしに来たわけではないからさ……。植物の話は、新芽が食べれる植物かどうかと、着生植物(蔦とかで他の樹に絡みついて伸びていく樹)の話と、熱帯雨林特有の板根の話をすごいされる。なぜならすごいからだ。


 というか、思いのほかマジな登山だったよ。これが研究室の遠足だったら数人から教授が谷底に落ちてると思う。普通に両手使ってゆっくり降りましょうとか言ってるレベルだしさ。トレッキングシューズの滑りにくさに感動を覚える。これでも一応、目的地の滝を下から見上げるコースっていう簡単な方を選んでるはずなんだけどね。当日の朝に小雨が降って、「ちょっと滑りやすいんですけど上から行くコースもありますよ」「いや……下からで……」「では安全に下から行きましょう」「ご安全に……?」とかいうレベルの話だしさ。あと喋りながら登山するの疲れる。完全にネタがないときの出身地トークで俺は、北海道の料理は素材頼りで何も名物はないみたいな、誰にでもしてるどうでもいい話してるしさ。そうこう言ってる間に、午前中の目的地、ピナイサーラの滝に着きます。

 なんか、ガイドブックやwikipediaに載ってる写真と違うな? この時期は雨が多くて水量が多いんだそうだよ。そして風が強くてものすごい水飛沫が飛んでる。眼鏡が曇る。しばらくぼんやり滝を見ながら休憩をする。「これは滝行はできないっすねー」「下に行くまでに怪我しますね」なんつって、俺はアホの子みたいになってる。まあアホの子と言えば、このガイドさんが時折投げてくる「これ、なんだと思いますか」っていうクイズに何一つ正解を返せていないからね。樹を伝うシロアリの通路とかカニの巣とかちょう小さい柿の実とかキクラゲとか、何一つ答えられていない。というか、考えられるほど脳に酸素がまわっていない。お茶を飲んで休んだら同じ道を通って戻ります。ちょっと違うのは、潮が満ちてきてる分だけ川の水量が増してジャブジャブ感が上がっているところね。ガイドさんは、水に浮かんで種を遠くへ飛ばす木の実について写真を撮っているんだけど

(あとから写真をもらえる)、俺は同じ場所に立って、自分のジャブジャブ感の高まりに呆然とした写真を撮っている。

 来た道を戻って一旦車に乗って、閑散としたフェリー乗り場(島に幾つかあって、今日はここ行きのは休航してる)で、そのガイドさんと二人でお弁当をつついている。黄緑色のツナギを着たまま、ご飯に関するフリートークが続く。風はびゅうびゅうと吹いていて、波が打ち付けているのが俺は気になっているんだけど、ガイドさんは全然気にしていない。この時点でだいたい13時くらいかなあ、このガイドさんと会ってから3時間か4時間くらいでしょう、俺ってだいたい誰に会ってもそうなんだけど、3,4時間くらい喋ると、もうそこでわりと疲れちゃうっていうか、黙ることについて気にならなくなるんだよね。ぼんやりしながら車に乗せられて、午後のコースの開始地点に連れて行かれます。さあ行こうというところで、なんだ、レガースガードみたいのを渡されるんだ。「これがあるのとないのとで、全然青あざの出来方が違うので」え? と思って。午前中でかなりハードな登山をしてきたつもりだったけど、こっから先、じゃあ、なに? と思って。まず入るところがマングローブの原生地。マングローブって何かっていうと、海水が潮の満ち引きで上がってくるから塩水で普通の植物は住めないところに変な奴らが住んでるってものなんだけど。そのマングローブの原生林にペットボトルが捨てられてて、「こんなところにもポイ捨てが……」って思ってたら、ふとガイドさんがそのペットボトルを拾って見せてくれたらそのラベルは中国語で、なんならその海水の満ち引きでここまで流されてきたものらしい。俺は「へーそうなんだ」って顔してるけど、ちょっと話として出来すぎじゃないかな? という感じもしている。最初に流れ着いてきたとこまではほんとっぽいけど、その1個流れ着いてきたゴミを、色んなガイドさんが後生大事にこのエピソードを話すためにここに置いたままにしてあるんじゃないかな? と思っている。そのままの勢いで代々の島中のガイドさんに大事にされて、最終的にピナイサーラの滝ばりの信仰の対象になっていって欲しいと思う。ここのマングローブ、オヒルギの変さというのは、地中で乏しくなる酸素を吸収するために根っこの一部を地中に出してるというもので

こんな感じ。「どうですか」って訊かれても、正直な感想は「土人形が一杯いるみたいで寂しくなくてよい」なんだけど、この感想はちょっとおかしいなと思って「ふしぎですねー」とか言っている。
 ここからちょっと進むと、もう完全に川を踏破して進んでいく道、だからこれを道と呼ぶのはどうかと思うけど、そんなところを歩いて行くことになるんだね。改めて与えられるルールが「人間、どうしても見えやすい、ちょっと高くなってる石とか川から出ている石に足を置きたくなるものですが、それだと滑ったときに高さがあって危ないので、もう濡れるのは気にしないで、どんどん川底を足で探って踏み入れて下さい」だからね。本能への挑戦……。実際はそんなこと気にしなくても、もうかなり疲れているから、足が上がらなくて、ほっといてもどんどん下がっていく方に行くし、川底は思ってたより深くなってたりして気がつくと両膝同時に川に浸かってたりするからね。おもらししたみたいで気持ちいい。うそだよ。なんか知らんけど着生植物についてやたら細かくレクチャーを受けて、西表島の中で妙に着生植物に詳しくなっている。そんなこんなで目的地がゲータの滝、これです、どん。

 なんかね、岩が直線的になっていて(堆積岩)、滝がものすごい人工的、つうかテーマパーク感ある。これが自然物かあ。かなり疲れて言葉少なな俺に、近くにあった炭鉱の歴史の話とかをしてくれているガイドさんはえらい。また同じ道を帰ります。レガースガードがちょくちょくズレ下がってくるのをちょくちょく注意されて、めんどくさいなーと思いながら直したり直したふりしてそのままにしてたりしてたら、途中で思いっきり膝を石にぶつけて、1週間くらいしてもまだちょっと痛い。車に戻って、石垣島まで戻るフェリー乗り場まで送ってもらいました。そうそう、西表島って内陸の方はほとんどケータイの電波入ってなくて、このフェリー乗り場でガラケー見たら4通くらい不在着信入ってて笑った。D論の製本とか、今日の星空観察ツアーが中止になった旨の連絡だの、あと泊まってる民宿の人が清掃に部屋に入っていいかどうかを確認する電話だったらしい。初日にしくじってるこのオッサンを更にしくじってて、もう笑うしかない。A&Wルートビア飲んでこっそり帰った。