米原万里 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

 幼少時代にチェコ=スロバキアソビエト学校で共産圏の色んな国の子供たちと過ごし、そのあと日本に帰国してしばらくするうちにソ連崩壊があって共産圏がすったもんだになる、その後に、消息の途絶えたその幼少時代の友人たちを探しに向かうというノンフィクション。幼少時代のエピソードを語る部分には、複雑なアイデンティティと個性を持つ少年少女たちの挿話が生きているし、いざ数十年ぶりに会いに行く時には、本当に会えるかどうかどころか、ボスニア人とか生きているかどうかも分からないというミステリーさながらの要素もあり、そして再会の暁には、その数十年の年輪を、共産主義民族主義による奔弄を、1人の人間に与える重みがずっしりと来る。更に、どんなに相手が変わってしまって、しかも例えば相手の嫌な部分が冷静に観察出来る自分になっても、確かに友達であったというのが残っている情の部分に、人間としての著者も生きていて、観察者として自らを高みに置かない。これは本当にすごい本であった。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)