フランク・ウィルチェック 『物質のすべては光』

 漸近的自由で2004年にノーベル物理学賞をとった著者による、現代素粒子論の概説。邦題を見ても「や、光じゃないけど」と思うけど、原題は『The Lightness of Being』、「存在の軽さ」みたいな意味で、まあ相対論の話からconstituent quark massとかの話も含めて、質量って何ぞやとかその起源の意味が強い。で著者はそこに引っかけて、実際のmatterったってその描像はエネルギーが担う部分もあるし古典的な「光」と「物質」に分ける意味ってあんまないよねっていう駄洒落の意味もあるよ、ってらしいんだけど、そっちを邦題として前に出すのはちょっと無理筋かな……と読んだあとも思わざるをえない。
 そんなこんなで、ニュートンとかの古典的な物理の描像から現在の素粒子論、GUTやらSUSYの話もちょっと触れるくらいまでのところを、宗教あるいは哲学の言葉を使った視点やら、シャーロック・ホームズやらサリエリやらが飛び出す比喩、それにファインマンやらゲルマンやらの同時代の物理学者やらの挿話を交えて、まあ楽しそうに語っていく本。ある程度言いたいことの理論を知ってる身としては、普通の勢いで語られる言葉に、その裏側で蠢いている数式をどんどん脳内に叩き込まれる刺激もある。しかし、そういう欧米文化を背景とした、ウィルチェックって人間が使う日常用語と同じレベルで物理を解説するのがこの本のいいところなのに、そこは邦訳の悲しいところ、物理の用語って日本語に訳すと逐語的に堅い言葉が対応してるのであって、それを敷衍したらなんだか、ジョークも含めて全ての話が逐語訳みたいな死んだ日本語になってる箇所がいくつもあって、たまにほんとに読みにくい。ある程度わかってる人が、物理の解説としてじゃないところを読むんだったら原書読んだ方がいいと思う。知らんけど。
 個人的には、破れた後の真空を超伝導体のアナロジーで捉える(著者はグリッドって言葉を使ってた)のが、まあ歴史的な順序で言ってもそれは正しい話で単に俺が物性知らないだけなんだけど、それがあんまりぴんと来てなかったので、そこは読んでてちょっと「ふーん」ってなったかな。

物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源

物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源