湯川秀樹 『旅人』

仮にも理論屋志望の大学生が湯川秀樹の自叙伝を読むとしたら、その関心は「中間子論という飛躍的推論、アブダクションが何故湯川秀樹という人間に舞い降りたか?」だけが問題となるのだけど、その点で言えばこの本は読むところが多かった。それこそ27歳で中間子論を構想するまでの人生の断片をひたすらに並べていって、一つ一つの話にオチがあるでもないだらだらした感じ(小綺麗にまとまったエピソード豆知識の類はwikipediaにでも任せておけばいいのだ)、特に中学時代までにこの本の半分を割くという構成は、どういう両親に育てられ幼少時代に何を見て彼という人間の基礎が出来たかというところが読めて、これぞ自叙伝の極みだな、という感じ。ちょっと独白が廉潔としすぎてて、無口だったんだけど立派な人だったんだなあ、以上の感想は持ちにくいけど。文章もやたら上手い。

旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫)

旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫)