世界中の悪意が狙ってる!

世界中がボクのことを嫌ってるじゃないですか。ちょっと油断すると死角から世界中の悪意が手分けしてボクを襲うのです。これがエロゲなら悪意を適当に美少女に擬人化して「『ねえ。油断してたでしょ、いま』くすぐるような笑い方がよく似合うその黒い少女は、そういって僕の前に舞い降りたのだった」とか言って適当に同棲ドタバタラブコメにすりゃいっちょあがりですが、現実はそうはいきませんからね。地味な不意打ちでボクを動揺させるのがそんなに楽しいのか血圧の高い方が100いかないボクのことを気遣ってくれてるのか知りませんが、古新聞をビニール袋に詰めて持ち上げようとしたら次々と持ち手の部分がちぎれて「え、新聞販売店にもらった古新聞用の袋が古新聞の重みに耐えられないってどゆこと」と唖然とする羽目になったり、朝起きたらトラバが飛んできて、字面だけ見るととても嬉しい褒められかたをしているのに結果的にはいきなり百十数件のブログを向こうにまわして「おい一休おもろいこと言え滑り次第お前の寺燃やす」とコメント芸を強いられてる状態になったり*1ですよ。日本橋オタロードを歩いてみれば正面から来る人に舌打ちをされ、ブックオフで著者だけ見てラノベを買っていざ家で読もうとしたらややエロ風味のところでページがカピカピになって開かず、大学でハンカチ(アニソン歌手のライブで買った限定品)を落としても別に見知らぬ金髪ツンデレ金持ち美少女が届けてくれるわけでもなくそのまま紛失したりなんです。まあこの辺は別にいいんですよ。俺が一人ですんすん枕を泣き濡らせばいいことですから。涙川なに水上を尋ねけむ涙腺ホチキス簡易ダムってやつです。
こうやって世界中の悪意が自分に向けられてる身からすれば、知らない間に人から嫌われてることなんざわけないんですよ。課題演習って授業ね、ボクの大学の物理系3回生が受ける授業で、数人の班ごとに分かれて各テーマに沿って実験をやる、この学年で一番重要な授業があるんですけど、後期にボクが選んだところ、5人の班だったのが後期開始早々にうち1人が消息を絶った(うちの大学にはよくあること)んです。そうなると普通は、さあ残された俺含めて4人の結束はいっそう固まる、いわゆる物理の花形である素粒子論がテーマだから大変だけどみんな頑張ろう、となるじゃないですか。とりあえず最初は実験の前提となる知識を固めるために順番に問題を黒板で解いていこう、ということをやってたんですけど、今週かなー、授業が始まる前に俺以外の3人が固まってその問題の確認とかしてんの。もう俺がその教室に入った時点で、普段俺が座ってる席に対して1人が完全に背中を向けた堅固なブロックフォーメーションを敷いてるわけ。びっくりするじゃん、その鶴翼の陣は逆向きだよ? まあ、これまでも薄々この人たちに嫌われてる心当たりはあったけど、こうもあからさまな悪意だともうしょうがないやとしか言いようがないです。足だけは引っ張らないようにしてあとは出来るだけ口を開かずにやり過ごす但し全身から漂う腐臭は隠しきれないけどな、という、ボクが高校時代に身につけたライフハックをあと3ヶ月ずっと繰り出していくしかない。
ところがいきなりの試練ですよ。「それじゃwebのwikiに参考資料揚げておくから来週までに各自読んできてね。あとwikiにスパム来るからeditだけじゃなくて閲覧にもパスかけといた。パスはまえ教えたやつだよ」なんて教員が言うんだけど、家に帰ってから昔のメモを探してそれ打ち込んでもパスが通らない。んでまあ、人に聞くわけにもいかないじゃないですか。「パスワードを知っている」と「あの教室にいる」と「俺のことを嫌っている」は同値関係にあるから。ねえ、俺以外の3人に「パスワードがわかんなくなっちゃったんだけど」なんてメールしたところで返信は「そっか残念、次週からは3人になっちゃうのかー」が返ってくるに決まってるんです。一応素粒子論は俺の志望分野だからこの授業を諦めるわけにもいかないし、かといって資料読まずに次回行った日には、ここぞとばかりに槍玉に挙げられた末に体中の穴という穴に剣玉を刺されるに決まっているんです(槍玉と剣玉をかけた物凄く面白い駄洒落です! みんな笑ってね!)。つまり、このパスワードを解くしかない。んでどうしたもんかなと。自室で、歯を磨く→すっきりしたところでコーヒーを淹れる→糖分補給にチョコレートを食べる→口の中が気持ち悪くなって歯を磨く→コーヒー→チョコ→歯磨き→という痴呆老人バミューダトライアングルを無意識にぐるんぐるん回りながら考えてたらコーヒー5杯目の途中で急に思い出した。そういやあの教室のホワイトボードの隅にパスワードが書かれたまんまだったような気がする。
ということで今日の昼過ぎかな。火曜の時点で今週はもう授業がないから、あとは布団かぶって世界からえんがちょ切ってりゃよかったのに、のこのこと学校まで出向いて行きました。ええ、もちろんそのホワイトボードにパスなんか書いてありゃしませんよ。更に、そこのPCのcookie探せばいいやと思ったらPCのログインにもパスワードがいる始末。パスワードパスワードとそんなにパスワードが大事か、学問においてはその特有の論理方法と専門用語に対する共通の理解という手続き的フレームにはまっていることが最も重要視されるべきであるがそれはつまり他分野や一般の人に対する排他的なパスワードとしての役割を果たしており今のボクの状態はメタファーとして現代物理に対する警鐘とは言えないかね? なんて嘯いたところで別にパスが解けるわけでもありません。ここ数日めっきり早くなってきた西日を頬に受けながら大学をあとにしました。
んであっさり家に帰ってきて、あとはもう昔のメモを手がかりに力尽くしかないじゃないですか。やりましたよ、勘違いしてそうな(大文字/小文字とか-/_/スペースとか0とoとかIDとパスの入替とか)ところを総当たりできるような手書きの表を作って79通り目ですわ、通りました通りました。もう通った瞬間なんかちょっと叫んじゃったね。きたこい! なんつってさ。もう、俺は何かに勝ったような気になったんですけど、別に具体的に誰かが俺の邪魔をしたわけではないし、結局いつだって俺の敵は見えない何かなんです。ほんとに俺はどうしてこんな、世界中の悪意と戦っていくような生き方しかできないわけ?

*1:あ、ほんとに言及されてること自体は嬉しいんですけどね。嬉しいついでにようやくせっかくの機会なので宣伝しておくと、id:khuludさんも編集執筆なさってる学生主体のWeb マガジン "Intell'llection" はこちら、雑誌特有のリアルタイムの連載が持つドキワク感がwebの持つ双方向性とテーマのバラバラさに増幅されてて、結構毎月楽しみに読んでます