マイケル・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう』

 富の分配とかaffirmative actionとかの身近な正義の問題を、思考実験を通して徹底的に考え抜くことを目的とした本。ある意味ではそこの問題提起だけが重要で、特に単一的な結論は出ない。読んでるぶんにはわりとリベラル寄りの人かな。そう、最初はそういう身近な問題を感情的な面から判断するけど、その判断基準を極端に徹底した場面を想定して思考実験を行うと、なんか直感的におかしなことになってしまう、それは何故か、みたいな手順をとるんだけど。まあ思考実験、哲学の人はそれが好きみたいですけど、その信用のならなさ、特にこの本での、極端化する手順に著者が手心を加える恣意性みたいのが怪しい。あと、アメリカ人の価値観、キリスト教の価値観なんかに則して「なんかおかしいよね」を言ったりするのが、わりとしっくりこなかったりもする。あと、単純に「でも、この部分をこう考えると、この意見には賛成出来ない部分もありますよね」が「え、そんなことも想定せずにその意見を支持してたの?」となるような薄っぺらさもあったりして、なんかそんなにいい本にも思えないんだけど、売れてるんですよね、これ? あとは哲学の人たちの、哲学者を一人丸ごと信用しちゃう感じ、「この部分は正しい」って言った後に、他の部分の主張を説明してそれが正しいことを当たり前とする感じ、みたいのは全然慣れない。別に色んな人の正しいことを言ってる部分だけ継ぎ接ぎすればいいのに、と思う。

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)