須賀敦子 『トリエステの坂道』

 4,50年くらい前にイタリアで現地の人と結婚した著者が書いた、その夫の家族を題材の中心としたエッセイ集。その家族というのが、結構貧しかったりするんだけど、そのエッセイとしての切り取り方には著者の慈しみがある。そんなに起伏の付いた筋があったりするわけでなく、ちょっと暗めの話が多いんだけど、それを端正な文体で書ききってるので、慣れるとその切なさが沁みる。あと、これは最早エッセイでなく小説の技なんだけど、一枚絵を描き上げるみたいに一つの風景を描写して、その解釈をぽんとこっちへ投げかけてくるところとかあって、それはちょっとびっくりする。まあ、来月、この表題のイタリアはトリエステに行くからという理由で読むと、「えっ……暗い……」って感じで、行くのが楽しみにはならないという罠だけど。

トリエステの坂道 (新潮文庫)

トリエステの坂道 (新潮文庫)