幸田文 『闘』

 結核に画期的な治療法が生まれる前、結核が現代でいうと癌のような病気だった頃の、結核病棟の入院患者を描いた小説。群像劇というのでもなく、とにかく色んな背景を背負った人間が一杯出てきてそれぞれに結核と闘病して或いは打ち勝ち或いは死ぬ。全体を通した筋というものはなくひょいひょいと登場人物を出してきてその人を書いては次の人、という感じだったり、いまいち3人称の視点が安定しなかったり、普通の小説として巧拙を言い出すとまあ難しいところはあるんだけど、幸田文一流の道徳観というか凛とした価値観で「こういう人がいる、こういう人生があった」ってのを実際に観察してるかのように書いては断じ書いては断じ、というのを為していて、なかなか強度のある本ではあるかと。

闘 (新潮文庫)

闘 (新潮文庫)