谷崎潤一郎 『鍵・瘋癲老人日記』

日記形式で書かれる老人の性生活についての2作。相変わらずこの作者はこの手の、実は弄ばれてる男を描くのがお得意でいらっしゃいますな、という感じ。『鍵』がある意味で、その題材を描くために寓話化というかキャラクターを役割のみに絞って抽象化して結末も死というシリアスなものにしているのに対し、その後に書かれた『瘋癲老人日記』は、この作者を読むときには欠かせない執拗なまでの風俗を絡めた女性描写や周囲の家族の描写も増え、また主人公から直接的な性能力を奪い去ってしまうことでその欲望を一層歪んだどこかコミカルな形にしてしまうことで、どこか滑稽ながらも、なんだか間に挟まる死への恐怖感が更にシリアスになったように見える。

鍵・瘋癲老人日記 (新潮文庫)

鍵・瘋癲老人日記 (新潮文庫)