本川達雄 『ゾウの時間 ネズミの時間』

マクロの生物の本。副題は『サイズの生物学』で、体長を基準にがしがし次元解析して相似形を作って、サイズの違う動物同士での共通するものなんかを調べたりする。例えば、どんな動物でも一生の心拍数は20億回で一定、みたいな。空間の長さを基準に時間軸まで取り込んでしまうのはある意味相対論的といえるかもしれない、なんてね。使う生物の知識はたぶん中学生レベルで大丈夫なはず。むしろ流体力学とか連続体力学の知識があった方が話がスムーズに入ってくると思う。

体積とか質量の何乗に何が比例している、それは何故かというと〜、みたいな感じで、実験で得られる数式に対して納得のいく説明を付加していく形で進んでいく。一応学部レベルの理論物理やってる人間からしてみると、逆に現象の理由の説明に数式を使うものなので、この因果関係の逆転(実際にはしてないけど)ともいうべきものが興味深く、また同時にそれにある意味での反感を覚えた。この辺りの危うさは著者も自分で言ってて、

 それにしても、2/3乗だといえば、たちまち表面積と情報量とを関係づけて分かったような説明をし、3/4乗に比例するとなれば、たちまち代謝率と関係づけた説が出てくる。実に科学とは単純明快で、悪くいえば節操がない。ここが科学のおもしろく、力強いところである。
 ここで注意しなければいけないことは、単純明快さを求めるあまり、意識するしないにかかわらず、事実を曲げてしまう危険性があることだ。

おいおいおいという感じである。

もう1つ違和感を感じたのは、現時点での全ての生物が、まるで無駄がない進化の終えた生物であるかのように書かれている点だ。もちろん文字通りここまでサバイブしてきた生物たちなのだから、そんなに無駄のある進化をしてきたわけがないとは思うのだが、「納得のいく理論」を付加するために、全ての生き物に合理性を求めすぎているような気がする。これは生物を詳しくやってない人間の「生命の神秘」に対する醜い嫉妬なのかな。

なんだか揚げ足を取ったような感想文になってしまったけれど、物理しかやってない人間でも分かるマクロ生物の本としてはかなり面白く読めると思う。初版が15年前の本なので現在の生物がどうなってるかもかなり気になるところ。

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)