渡辺佑基 『ペンギンが教えてくれた 物理のはなし』

 バイオロギング、野生動物にGPSとかの計測装置をつけて移動距離なんかを調べる、わりと流行りの動物行動学の手法で分かった、最近の研究の話。それで色々な動物の泳ぐ速さや潜水時間なんかを集めて、体の大きさと一緒にプロットしてみるとあら不思議、なんか曲線にみんな乗って、それが体の体積に対する酸素の代謝率などの物理法則で一発で説明できてしまう、なんて。実際にフィールドワークでのエピソードを中心に、それぞれの生き物の体の大きさとか習性に合わせて計測装置を設計する個々の例の具体性を語る部分と、データを集めてその具体性を捨てて単純な物理法則で説明する抽象性の部分の間の飛躍が、実にサイエンティフィック。ちょっと綺麗に説明できすぎで、あらゆる生物が最適解をとってるように見えて、最近の淘汰圧とか収斂進化ってそんなのなの? とは思うが。適応主義とは。
 『ゾウの時間、ネズミの時間』なんて名著もあるが、いかんせんこの分野は人口に膾炙してる常識がいつの間にかひっくり返ってる(この本に出てくる例だと、マグロの泳ぐ速さが80km/hとかいうのは桁違いの嘘で、しかも著者は原論文にあたって、大体なんでそんな結論に行き着いたかを確認したりしている)分野なので、たまに最近の本で知識をアップデートしないといけないけど、その面でこの本は実に良かった。

ペンギンが教えてくれた 物理のはなし (河出ブックス)

ペンギンが教えてくれた 物理のはなし (河出ブックス)