バルザック 『谷間の百合』

 前に読んだ『ゴリオ爺さん』と同じ人間喜劇の中の一作。農地でDV男と結婚して2児のいる若妻と、それに一目惚れした若者の成就しない恋の話。まあ想い合っているのもお互い知っている、肉体関係にならないのは夫への貞操のため、離婚しないのは夫のもとに子供を置いていけないから、とか言いながら、丹精こめて野花で花束を作って渡したりする。それでいざ若者が都会に出て社交界でちょっと他の女と恋愛関係に入ったのを聞き及ぶと嫉妬で死にかけるという。なんつうか、いくら愛を誓ったって童貞が肉欲に勝てないのはほんと仕方ないし、それで繋ぎ止めておけると思う方がズルくね、と思う。子供の方が大事ならそれはそれでちゃんと諦めなさいよ、つうか、そんなことで死なれてもな。お互いが童貞をこじらせあって、それぞれ相手はお互いしかいないという自分の潔癖さに自縛してる感じがつらい。まあ小説の中の話としては分からなくもないし、それでお互いを包む農地の風景描写は綺麗だったりするので面白いんだけど。

谷間の百合 (新潮文庫)

谷間の百合 (新潮文庫)