村上宣寛 『心理学で何がわかるか』

 大学の本屋で心理学の棚を見ると『夜と霧』なんかの隣に、ずらっと統計の分析のやり方に関する本が並んでいて、知らんけど学問として心理学をやろうとすると、そのアンケートなり臨床例なりを分析して、因果関係なり相関関係なりを示さなくてはいけないらしい。この本では更にその一段上、メタ分析として、例えばアンケートの質問の仕方とかから、これまでの論文とかの分析がどのくらい信用できるかを精査して、そっから導かれる話を紹介している。内容は例えば「長男長女と次男次女以下で性格は違うか」とか「記憶力は訓練で鍛えられるか」とかわりと身近な話で、まあこの2つに関しては否定しているんだけど、そういうある意味でドライな結論を、その統計の生データ多めに導く。
 まあそういうサイエンスに徹して直感に反した話をして、例えば「幼少期の育児の影響はそんなに大きくない」とかいう結論からそれについて悩んでた人が救われれば素敵だと思うんだけど、しかし。妙にこの著者が攻撃的でな。日本の臨床心理学とかを相手取って、国内で出てる論文のエビデンスとしての価値(定量的に評価できるらしい)が低い(らしい)のを中世医術の瀉血に例えてみたりするのは、ちょっとやりすぎな感じもするし(そういう話をするなら精神科医との棲み分けの話も気になるけど)、なんか「鬱病には薬物療法より運動療法の方が副作用も少なくていい」って話では「製薬会社の巨大資本」なる言葉まで出てきて「お、おう」ってなる。そこが著者の人間味と言えばそうなんだろうけど。

心理学で何がわかるか (ちくま新書)

心理学で何がわかるか (ちくま新書)