幸田文 『雀の手帖』

 1959年、というより昭和三十四年、という方がしっくりきますけど、その1月途中から5月くらいまでの100日分、1日2Pくらいの短い随想を連ねたもの。書いてあること自体はすごく普通で、「普通のおばあちゃんか」っていう感じなんだけど、それを読ませるのは、やっぱりこの著者らしい端正で丁寧な文体、それに、チクタクしょぼしょぼひやひやめいめい、自分の感覚に嘘をつかない擬音語と擬態語の手のついた確かさ、そして、失敗談を中心にした謙虚な親しみやすさ。それがやっぱり、普通のことを言っていても、幸田文、"幸田さん"に対する敬意として素直に読めてしまう。

雀の手帖 (新潮文庫)

雀の手帖 (新潮文庫)