貴志祐介 『青の炎』

　ミステリ、特に犯人の視点から事件を描く倒叙ミステリと呼ばれるジャンルのもの。母と妹と仲良く暮らしてたところに、昔その母と結婚してたクズ男が居着いて、で優等生の主人公がそいつを殺す、みたいな話。シチュ的にはひぐらしの祟殺し篇の元ネタなんて言われたりしてるみたいだけど、そのクズ男のクズっぷりみたいな胸糞悪い部分はわりとあっさり乗り越えて、周到に完璧な殺人計画を練ろうとする主人公の心理がメイン。特に前半は、優等生で爽やかな少年主人公がちょっと困難な問題にぶち当たって解決する、くらいの青春小説として読めてしまうくらい。まあその、若者の青春小説、特に(当時としては)新しい言葉を使おうとしてるぶんだけ、書かれてから13年くらいで既に筆致が古くなってる部分があって、そういうのも含めて必要な知識の開示が「そんなこと訳知り顔で堂々と言われても」という部分があったり、あとはヒロインや妹が妙にラノベテンプレっぽい部分があるだけに風化してたり(ヒロインの語尾に「わよ」が付いてたりする)、今読むといまいち文章として小慣れてないように見えたりするのは、まあしょうがないかな。まあ主人公が出来過ぎの少年なのに、状況の行き詰まり感故にその出来過ぎさを更にちょっと越えてる青臭い万能感で視野狭窄に陥って殺人に走る、そこのやるせなさと、倒叙ミステリらしい犯罪の露見とのコントラスト。

青の炎 (角川文庫)