尾崎紅葉 『金色夜叉』

 明治期に新聞上で連載されて莫大な人気を得た小説。幼馴染みの宮と相思相愛だった貫一だけど、その宮が金持ちに見初められて宮もまんざらではなく嫁いで行ってしまって、くわんいちさん世を拗ねて高利貸しになり、宮もあとから後悔し始め、みたいな話。まあ今となっては通俗小説と批判されるのも宜なるかなで、実際、途中で酷い夢オチがあったりして切りの良いところで終わらせられなくて最終的には未完、なんてことになってはいるけど、美文体で綴られる感情的で分かりやすい筋は、するすると入ってきて美しい。個人的には、特にこの時代だと、結婚なんか誰としても一緒というか、縁さえありゃ誰とでもそれなりに上手くやるってのが一つの人間的成熟だと思っているので(悲恋を貫きたきゃ死ねばよい)、金に目が眩んだ一時の迷いだとしても、最後まで不幸になった自分のことしか訴えない宮に「うーん……」としか思わなかったり。まあでも最終的に大爆笑されてるからなあ。人の性格に於ける時間的経過による変化ってのを、どのくらい信用できるものかねえ。

金色夜叉 (新潮文庫)

金色夜叉 (新潮文庫)