笠原嘉 『精神病』

 いわゆる統合失調症(この本が書かれた当時の言葉だと分裂病)についての概観を、著者自身が実際に見てきた長期間の臨床、また多くの統計データを用いて(当たり前だけど、ちゃんと1次データの引用が多い)1冊に纏めた本。症状だけでなく、原因への考察や福祉面のフォローまで含んでいる。webでの精神科Q&Aでお馴染みの林先生が、この病気についての本として勧めてた1冊。筆致は個々の臨床についての暖かい同情に溢れながら、それでいて科学的で、しかも長年の経験だけがなせる落ち着きを纏っている。特に、印象より高い治癒率(50%を越えるらしいですよ)、そして傾向として見られる、加齢に伴う軽症化(晩年軽快)、そして近年(まあちょっと古い本ですけど)、どうやら全体的にこの病気が軽症化しているらしいなど、「一旦罹患してしまった後」に対して、冷静にポジティブな材料も与えている。個人的には、この病気に陰性症状ってのがあることを知らなかったので、その点は興味深く読みましたかね。まあなんにせよ、1冊だけ読んで素人が自己診断することほど意味も無いし危ないこともないけど。更に言えば、そういうのが、こうやって真剣に治療に携わっている人たちへの一番の侮辱でもあるしね。

精神病 (岩波新書)

精神病 (岩波新書)