志賀直哉 『大津順吉・和解・ある男、その姉の死』

 どれも、父との不和を書いた、私小説ぶん強めな三部作。個人的に『和解』は、これまで読んだ小説のオールタイムベストだったので、読み返すのは緊張したんだけど。相変わらずその父との和解と、それで周りを取り巻いていた家族らが、詰まっていた息を緩めるように和解を喜んでくれるところと、は堪らないものがあるね。この『和解』、具体的に何故父と対立しているのかが書かれていない、みたいな批判がよくされるわけで、特にこの三部作で『和解』の後に書かれた『ある男、その姉の死』なんかでは、一歩離れたところからその不和を批判的に見つめる「弟」という存在を仕立て上げて、その一人称から客観的にその不和を書き上げる、なんて試みが成されたりして、まあそれなりに不和の説明が付いてたりもするんだけど。個人的に、自分の小説として読むぶんには、そんなものは全く必要が無くて、「一緒に棲んでいる人と性質が合わない」「その人が強権的である」なんてことに押し黙らせられる耐え難い塗炭、そしてその父から離れたところに暮らし、自分でもようやく距離を上手く調節出来るようになったり、父も年をとって少し弱くなったりして、自然と時期が出来て「なんとなく」和解することが出来る、なんてことが、物凄く共感出来て、「ああ」って思っちゃうんだよね。文学的な評価とかは関係なく、好きな小説です。他人に勧めたりとかは無いけど。

大津順吉・和解・ある男、その姉の死 (岩波文庫)

大津順吉・和解・ある男、その姉の死 (岩波文庫)