カミュ 『転落・追放と王国』

 表題の前者が中編、後者が短篇集だけど、元々『転落』も『追放と王国』の一つとして書かれてたのが長くなりすぎて独立した、っていう経緯があるので、全体としてはまとまりがある。これを書いた辺りでカミュノーベル文学賞をとってるわけで、その程度には後期の作。この時期、論壇でボコボコに言われたりとかしてるらしいんだけど。まあ事故で急死した人に後期とかあるのかとかは知らない。中の作品はそうだね、あんまり物語的な起伏はないんだけど、いわゆるカミュ的な「不条理」だけがあるというか。なんつうのかな、何がっていう具体的なことじゃなく、ふとしたきっかけとか漠然とした感情からいきなり苦悩に苛まれて、それまでの現実から距離を取りながらも完全に逃げ出すわけじゃない、というか。なんとなくそんな感じ。正直、わりと難しい描写とかあるんだけど、その自分でもよくわかんないような感情を、一旦ブラジルとかアルジェリアの風景描写にぶつけてからその反響で表現するような上手さがあって、よくわかんない感情だからこそのなんとなくの理解が出来る気がする、みたいな。

転落・追放と王国 (新潮文庫)

転落・追放と王国 (新潮文庫)