天沢退二郎 『光車よ、まわれ!』

 40年くらい前に書かれた児童小説。その後数年前まで絶版になってた時期が長くて「幻の名作」なんて呼ばれてたことでも有名な1冊。日常の世界を舞台にしたファンタジー冒険譚なんだけど、使われてる言葉も上品ながらやっぱり古くて(「お勝手」とか、「先に」を「せんに」って読んだり、わりと俺好み)、あるのは40年前の少年少女が読みながら感じた「もしかしたら明日こんなことあるかも」っていうリアルであって、今読んで手放しに絶賛するのは、それはちょっとノスタルジック加点入ってる人だろうとは思う。まあ、ただ、児童小説特有のあんま細かい設定とか暗喩とかなく結構イメージ先行で襲ってくる、とにかく怖い敵(わりと容赦なく脇役格の子供でも殺されるしな、その辺のコードっつうかお約束の違いも"古さ"を感じる点でもある)、まあこれが今回「黒い水が腕を伸ばして引きずり込んで溺死させようとしてくる」とか言って、もうそれ普段の幻覚で見えそうになる奴じゃん、怖いったらない。そのビジュアルの強さは確かに"不朽"の名作。あとはまあ、たまに「『電脳コイル』の元ネタ」なんて参照されたりするなど、作り手の世代が回って、現代の作品を理解するのに押さえておいてもよい部類の本。

(P[あ]2-1)光車よ、まわれ! (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[あ]2-1)光車よ、まわれ! (ポプラ文庫ピュアフル)