中勘助 『銀の匙』

 100年ちょっと昔の詩人が書いた、少年の頃の回想記。文致は平易な大人のそれでありながら、その世界は徹底的に子供目線で、わりに淡々とした日々の出来事を、そのいかにも"のちに詩人として自分の世界を表現しなくちゃならなくなる"ほど独特でナイーブな感性で描き出す。客観的に見れば例えば作者の家がたぶん物凄い金持ちでしかも親代わりだった伯母の子煩悩だったことによって完全にスポイルされてて、これを思い出補正とかいう言葉で切り捨てることは簡単なんだけど、ここまできらきらとした感受性という甘やかな衣でコーティングされるととにかく綺麗。

銀の匙 (岩波文庫)

銀の匙 (岩波文庫)