ちくま日本文学全集 川端康成

いま配本されてるシリーズの1世代前に全50巻で出たやつ。『葬式の名人』と『掌の小説』の中から幾つかの短編と、『山の音』。短編は幻想的な方の川端もいくつかあるけど、大部分を占めてる『山の音』は細やかな表現で日本的な美しさを描いているもの。川端康成の少女の書き方はエロいと思います。何がというわけでもなく、観察眼の卓越が成したことなんでしょうけど。
『山の音』は時代に合わせた通俗小説っぽくもあるんだけど、主人公の老いと家族の崩壊が静かに語られる退廃的な雰囲気が、対照的に現れる花鳥風月の美しさと生命力の中に書かれ、特にその自然を解す女のみが好意的に書かれるという閾としての役割、そしてその世界のクローズドな美しさ(そういう意味では信吾から菊子への愛情は恋愛感情とくくられるかどうか)の格調高さはさすが。