九鬼周造 『「いき」の構造 他二篇』

江戸で言う「いき」、上方で言うと「粋」という日本民族特有の美意識とは何かについて、漢語調でかなり論理的に論を進め、幾何的つまり客観的な位置づけを行った本。「いき」が何であるか、というよりは何が「いき」とされたかというのを、近代などの文献を引きながら解説していくんだけど、著者も自ら言っているようにそんな解説を読んだところで「いき」が身につくわけでもないし、んなものは体得してなんぼ。つまりこの本は、そういう自分の「いき」のために読む本ではなく、自分とは断絶されて放り出された知識として「いき」ってどんなものだったのか、ひいては日本民族の生き方を知りたい人が読む本なのだと思う。個人的にはあんまり縁のない分野だったから実感が全然伴わなかったけど。文章自体も取捨に著者の主観が入っているのは間違いないところで、著者のバックグラウンドを知っておくと読みながら楽しいけれど、というところ。「いき」の対照、二元性がやたら強調されてるところで、一つ覚えでツンデレツンデレ言うのもいいんだけれどね。あとは論の進め方自体がそれなりに面白かったかな。他の二編のなかの『風流に関する考察』は短歌をモチーフに似たようなアプローチで風流を位置づけるもの。『情緒の系図』は現代の短歌を羅列しながら感情に名前とそれらの相対関係を決めていくものだけど、これはあんまり面白くなかった。

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)