シェイクスピア 『リチャード三世』

ばら戦争中のことを書いた史劇。実際では10云年かかった出来事が数週間くらいの感じで圧縮されてる。でもどちらかというとそれらの事件を通して「リチャード3世」という圧倒的な悪役というものを描こうとしている感じ。正式名称が『The Tragedy of King Richard the Third』であることからもわかるように結末は悲劇なんだけれど、同情を誘わないというのか、感情移入して感動するというような悲劇ではない、悪人がいてその悪の結末としての悲劇、そこにあるはリチャード王の一人舞台、「運命」という虚の存在とただ踊るだけ。こうなると「悪」という概念は「人」というものを浮かび上がらせるエッセンスとして最高のメディアとなる。疑念から次々と謀殺を起こし、味方が少なくなった後も孤独に戦いにしがみつき、遂に最後の戦いで乗る馬も用意されなくなった時、

馬をくれ!馬を!代わりにこの国をやるぞ、馬をくれ!

と叫ぶリチャードは、これ以上ないくらいに哀れで、訴えを秘めた愛すべき人間である。
リチャード三世 (新潮文庫)