為末大 『日本人の足を速くする』

世界陸上が終わってからこの本を読むのは卑怯かもしれないけれど。6年前の世界陸上の400mハードルで、トラック競技初の日本人での世界陸上メダリストになった現役ハードラー。生涯を鈍足で通そうと考えてる俺がこの本を読んでどうこう言うのもなんだけど、まあ題名通りの実用本という感じでもないのでご勘弁くださいな。

この本を通じているのは、一種の諦念ともいうべきもの。それは、著者が日本人として生まれ、日本人の体型を持っていることに対してであり、自分の感情や体調のどうしようもない浮き沈みに対してであったり、アスリートとしての限りある時間に対してであったりするものである。それを可能にしたのは恐らく、自分の置かれている状態に対する鋭い自覚であり、自分のやれることはやったという自信であろう。そこに自分のポテンシャルを限界まで引き出す「陸上」がある。まるで自分の体を実験道具のように様々な調整を試し、与えられたレース環境をあたかもゲームかのようにクリアする。「身体能力」では大きく劣るといわれる日本人も、この経験則しか持ちえない「科学」なら「ノーベル賞」が獲れるかもしれない、そんな気にもさせてくれる。

タイトルや帯の煽り分はあたかも速く走るための実用書かのようだが、それは初めの2章だけで、これは陸上の優れた入門書であり、そして為末大によるプレゼンテーションだ。




うーん、今日の書評もどきはなんだか偉そうだなあ。北海道新聞の一面の下のコラムみたいでなんかやだ。

日本人の足を速くする (新潮新書)