サン=テグジュペリ 『夜間飛行』

『星の王子様』で有名なサン=テグジュペリの小説。そもそも飛行士としても有名な著者が書いた、夜間郵便飛行黎明期のリアルな作品。危険にあふれる夜間飛行に対し、苦悩しながらも表に出さず厳粛な管理制度を布くことで、郵便飛行に未来を与えようとした支配人リヴィエールが主人公。

暴風雨の中の夜間飛行で自分の位置も掴めないファビアンの極限状況におかれた人間の美しさと尊厳、それに対して、より大きな「郵便飛行の未来と安全」を護ろうとして、ファビアン機が失踪した後も冷徹に他の飛行機の運行を命ずるリヴィエールにも、ある意味での極限状況での人間としての美しさが感じられる。現代日本でリヴィエールみたいなことやったら多分マスコミにボコられちゃうね。

もう一編入ってる、著者の処女作『南方郵便機』は、恋愛を描いた分主題がわかりやすくはなっているけれど、ちょっと展開が安直というか感情的過ぎて、個人的にはあまり好きにはなれませんねえ。訳者のあとがきでは精読が必要とされると書いてあるけれど、どんなもんですかねえ。

翻訳は純粋に古いんだろうな、比喩の関係がまわりくどいけれど、やっぱり詩人としても有名な堀口大学訳だけあって、端々の詩的表現には唸らされる。

夜間飛行 (新潮文庫)