小林秀雄 『考えるヒント』

んー、なんだか難しい本だったなあ、というか字面を追っかけるだけなら簡単だけど、多分この作者はめちゃめちゃ頭いいんだろうな、読みやすい形にはしているけど文章の本意をとるのはなかなか難しい。そんな短編集。どうやら作者的には気を抜いて読めるように書いたらしいけど、結構つらいっすよ。

その批評の切り口というか導入部分は結構著者の個人的趣味が強く反映されているというか、なんてことはない日常をきっかけにしてはいるものの、莫大な知識と徹底的な思考を以ってそれを批評をしているから、そのなんてことはないものも、とても重要な意味を持ちうることがわかってとても面白い。批評という字を見るとなんとなく厳しいものを想像しがちだけれども、基本的には著者が興味を持ったり好きなものだったりするものを題材にしているから決してそんなことは無く、なんだか「批評」というよりは「徹底された思索の跡」を読んでいるような感じ。それこそこの本の中の『批評』という短編にある

批評とは人をほめる特殊の技術だ、といえそうだ。

ある対象を批判するとは、それを正しく評価する事であり、正しく評価するとは、その在るがままの性質を、積極的に肯定する事であり、そのためには、対象の他のものとは違う特質を明瞭化しなければならず、また、そのためには、分析あるいは限定という手段は必至のものだ。

なんてところからも伺えたり。

結局。この本を読んでなんだ、というよりは素養のうちの一冊としたほうが良さそうな感じ。

新装版 考えるヒント (文春文庫)