ニトロプラス 『沙耶の唄』

 2003年。プレイ時間5hしないくらいの小品ではあるけど、今でも語る人は多い虚淵玄シナリオの初期の名作。セカイ系の文脈でも語られることは多いか。
 事故に巻き込まれて生死を彷徨って以来、視覚がおかしくなって世界がグロテスクな肉塊にしか見えなくなったんだけど、沙耶っていう稚い不思議な少女だけは正常に見ることが出来る、なんつって、ネタ自体は『火の鳥』の復活編にネタ元があるんだけど、エロゲ時代の虚淵一流の、エンタメに徹した演出方法がそれを彩る。グロテスクな背景でインパクトを与える序盤、日常をある日浸食する理不尽な暴力というホラーの王道手法で加速する中盤、そこに並行して「きみとぼく」の2人だけの世界で交わされる睦言のピュアネス。その純愛の高まったところにぽつんと選択肢を入れては、その悪に留まる選択肢を選んだ覚悟を試すかのように、それまで主人公の親友ポジションだった男にハードボイルド主人公的な演出が施されて、その視点から謎を曝く後半、そして、2人だけの世界を壊されたところで、元の視点に戻して愛に殉ずるエンディング。さんざ品のないものを使う演出の仕方に長けている人が、それを使って一番綺麗なものを演出してくる。

沙耶の唄 Nitro The Best! Vol.2

沙耶の唄 Nitro The Best! Vol.2