『シンプル・シモン』

 兄と一緒に暮らすアスペルガー症候群(元は2010公開なのでDSM-5とかあれ)の弟が、同棲していた兄の恋人が自分のせいで出て行ったことから、兄の新しい"完璧な恋人"を探す物語。混乱を避けるために、1日の時間割を秒単位で決め、曜日毎に食事のメニューを決める、なんて、秩序だったものに対するアスペルガー症候群の嗜好性が、ある意味ユーモラスに描かれているんだけど、なんかそれって、ほんとに混乱に満ちた世界の中に少しでも乱れの少ない規則を作って、自分の心の混乱を鎮めようとしてるものだと俺は思うので、そのルールへの頑なさが、映画館で見てる周りの人に微笑ましい、忍び笑いで迎えられているのに、思いのほかイラッときたりはした。自分の世界の中の知っているものを組み合わせてどうにか作ったのがアレなんじゃんね。あと字幕か、なんか途中で一度、兄が弟のもとを去ろうとするシーンがあって、その時弟が泣き叫ぶんだけど、その叫びが兄の名前を連呼する「サム、サム、サム!」なのになんか字幕がその名前の連呼の間に「行かないで」とか挟んでて、なんかなーと思う。予想外のことが起きて混乱してる時に、他に言葉が出てこずに固有名詞を連呼するしかなくなってるとこだと思うんだけどな。そこもわりと。いやまあ、宣伝の仕方とか感想サイトとか見ると、そういう映画ではないことは分かるんだが。らぶ、こめ、でぃー。
 なんかねえ。こういう、物語みたいなことが起こって人生がまるっと好転しちゃうようなこと(そんな可能性に賭けること)と、取り敢えず今感じている苦痛を和らげる方向に誘導する(この話でいう、混乱が減るように毎日同じ服を着て秒単位で時間割を決めたりとか)ということのバランス、というか、誰がそれを引き受けるのか(職業として診る人と、家族として支える人で、とっていい確率、リスクとか)ということをちょっと考える。そういう映画ではないことは知ってる。