ぱんぱかぱーんしてない方

 知ってるおばあさんに台湾出身の方がいてね。んで、この出張前に、「今度台湾行くんですよー」なんて言ったわけ。正確には「あっ……ああ、ここ、こ、今度、台湾に、行く、んですよ、あの、出張で」ですけど、まあこのブログには嘘しか書いてないんだから、いいじゃないですか、別に俺の吃音癖については。まあ、そのおばあさんも今もちょくちょく台湾に行ってるみたいだし、大したアレではなく言ったら、まあ思いのほか喜ばれて。そんで「台湾行くんだったら、南の方、高雄に行かなきゃ駄目よ」とか言われるわけ。聞くところによると、俺が出張で行く台北と島の端と端、高雄ってところの出身らしいんだ。しかも俺、「はあ……」なんて答えちゃってるのね。「台北とかとは全然違うから、あそこはもう都会化しちゃって。その点、台湾らしい台湾は南の方! 絶対行ってね!」「はあ……」なんつってさ。正直、まあめんどくさいことになったなと思ってるわけ。もう『地球の歩き方』は台北編を買っているし、高雄のことなんかこの時点で何も知らない。艦これの高雄は京都の高雄山由来なので関係ない。もう、行きたいと思う要素が一個もないんだね。それを、出張で行く研究会には1日しか休みがない、そこを使って行けということか? と首をひねっているわけ。まあ別に、台北で行きたいと思うとこもたいしてない(博物館と動物園くらい)し、行くのはいいんだけどさ、しかしめんどくさいなと思って。調べて計画を立ててなんやらするのがもう面倒くさい。面倒くさいのが過ぎて、結局、日本の代理店が売ってる、よくある現地出発現地解散のツアーに申し込むことにしました。朝早く台北に集合して、新幹線のチケットをもらって、現地で日本語ガイドを受けてまた新幹線で戻ってくる。お値段25,000円。なんだこれ。
 そんで日曜日、台北での集合場所が、まあどっかの豪華ホテルのロビーに朝8時とかだよ。自分のビジネスホテルの朝飯(一番美味しいのは味がないお粥と味がない蒸しパン)も食べずに、集合場所へ向かうんだ。まあ駅で一迷いして、最終的には全力ダッシュしてるけど。えー、それで、集合してみてびっくり、老人12人、中年2人、俺1人。そもそも1人で参加してるのも俺だけ。イマジナリーフレンドはこういう時に数えないことになってるらしいじゃん。新幹線のチケットを渡されるときには「みんな5号車なんだけど、cmizunaさんだけ2号車ネー」とか言われている。ほんともう、なんだこれ? と思いながら1人で、時速300キロ出ることで有名な台湾の新幹線に乗っている。車両と車両の間にある自動販売機でお茶を買えば、日本の静岡産の茶葉らしい、別にそれはJRが妙に静岡茶を推してるだけで、新幹線に乗ってるときに静岡茶を飲むといい、的なおまじないがあるわけではないからな……?
 高雄に着いてからは、バスを1台貸切にしてまわるんだけど、なんかそのバスが、2月に死んだ祖父の家の匂いがしてるんだ。加齢臭か死臭だよ、それは。もう、相当な老人ばかりがこのバスに乗ってきたんだと思うんだよね。まあ老人ばっかならそれはそれで別にもうどうでもいいんだけどさ。あの、めんどくさいやつあるじゃん、バスガイドさんが雑談の中で「台湾では日本のドラマもやってるんですよー、最近は半沢直樹とかもやっていて、だから今日は皆さんに、おもてなしを倍返しだ!」とかゆるいギャグ言って、やんややんやーって拍手するやつ。あれとか老人は勝手に盛り上がってやってくれるからね。俺みたいのが15人の前でそんなゆるいこと言った日には苦笑いしか生まれない。というかバスガイドさんというのが俺は苦手なんだね。たぶん、高校の修学旅行で伊丹に着いて京都に向かうまでのしょっぱなにガイドさんが「大阪では、全国で一番多くとれる栗があるんですけど、それはなんでしょう? ……ヒントは、最初に『ひ』が付きます!」って言った瞬間に「ああ、ひったくり」って呟いて、周りに座ってたクラスの女の子からは「cmizunaくんが駄洒落……」と苦笑いされ、隣の席の知人には「ちょっと……」と窘められ、しかもバスガイドさんには「えっと……そこの彼が言った、ひったくりが正解なんだけど……」と言われ気まずい感じにして以来というもの、俺はバスガイドさんのそういうゆるいオモシロには金輪際付き合わないことにしているのだ。じゃあなんで俺は今回のツアーを申し込んだのだ……? ヒントは、最初に『に』が付きます! ああ、煮え切らない態度で知り合いのおばあさんの戯れ言を真に受けざるを得なくなって結局何もかもがめんどくさい事態を背負い込むことになる、いつものやつ。うるさいよ。
 まあ、確かに高雄、ちょっと面白いんだ。というかねえ、台北が、物凄い勢いでファミマとセブンとマックとケンタがあって(池袋なみにファミマがある)(こないだ行った高知にはセブンイレブンなかったのに)あんまアレなのに比べると見たことない看板も多いし、あと宗教施設、蓮池潭とか旗津天后宮とか行ったんだけど、なかなか派手な感じで面白い。
 昼飯も、他の中年やら老人やらと同じ円卓を囲うんだけど、たいして俺は話すことなんかないわけ。まあ、向こうから見ても謎の存在だろうね。なんか、俺の知ってる海外旅行とは全然違う感じのことやってる人たちで、行くとこ行くとこ全部ツアーに手配させてる、移動も全部ホテルから呼ぶタクシーで、地下鉄乗って移動なんて怖くてありえない、みたいなこと言ってるんだ。気が付くと店員とかにも日本語で話しかけたりしてるからね。それが通じる世界がどっかにあるんじゃねえの。ジジイが飯の味つけに文句を言っている、ババア同士が美味しいパイナップルケーキの話をしている、俺は遠い目をするしかないね。まあ、そのパイナップルケーキ情報は盗み聞きしていて、後日、他大の同級生と行くことになる。
 ツアーも最後、まあそういうツアーの決まり事として、旅行会社と提携しているお土産屋さんに連れてかれるってのがあるじゃないですか。それですね、なんか地下にある、やけに広いお土産屋さんに連れてかれるんだ。そこで売ってるのが、なんとかいう名前の白い鉱石で出来たブレスレットだ。なんか世界で、日本のどこぞの温泉と台湾のどこぞの温泉でしか採れない鉱石らしい、しかも日本の方は天然記念物になってるから、もう買えるのは台湾だけ、なんつってさ。しかもその売りが、なんとかイオンを豊富に出すことらしい。ずっと付けててもいいし、お風呂にブレスレットを浮かべても元の働きをします、なんつって。そんで、実験と称して、そのブレスレットから出るなんとかイオンをなんか器械で量るんだよ。なんか器械には「ion meter」と書いてある。翡翠ブレスレットにいくつかその石が混じってるやつにその器械を当てると器械には3000くらいの数字が出る。全部その石でできたブレスレットに当てると5000、ちなみにこの器械は日本製だから信用バッチリネー(バスガイドギャグ)。懐からハンドブックを取り出して、研究者によるとこのイオンは百年単位でなくならないと書いてありマースとのこと。さあ、皆さんもこのブレスレットを腕にはめて、この器械で量ってみましょう! なんて誘われるんだ。えー、まず物理屋ルールとして、単位の付いてない数字を実験結果として見せてきたやつは、半径2メートル以内にある一番硬いもの(この場合はその石)で殴ってもいいというルールがあるじゃないですか。ないです。ないです。そんなことをしたら普通に捕まります。まあ、なんつうのかなあ、ヒント1は、この石は温泉から採れるものです。ヒント2は、その怪しげなイオンメーターとやらは、よくあるガイガーカウンターに大変よく似た形をしています。なんだろうなあ、と思うわけ。果たしてこのイオンとは、なんだろうなあ。いくらヒントをもらっても、俺はもう、バスガイドさんの質問には答えないことにしているのだ。俺に給料をくれているところは、研究者に「研究活動の成果を国民や社会へ分かりやすく発信すること」を奨励しているのだけれど。ババアどもがきゃあきゃあ言いながらブレスレットをはめている。果たして、君らが量っているこのイオンとは、なんだろうなあ。考えてたらお腹が痛くなって、結局、そこを去る時間になるまでトイレにいました。台湾のトイレはウンコを拭いた紙は流しちゃいけなくて、便器の横にある屑籠に捨てるんだよ。