ラブひなしてきた

 いつだっけ、確かまだドイツ行ってた頃だと思うんだけど、本郷にある大学の人からメールもらって、前に出した論文について1時間くらい喋ることになったのですね。セミナーっつうんですけど。あの、俺のセミナーの頼まれなさみたいのがちょっと度を越えていて。というか、1年前に既にそういう悩みがあるという話をしたけど、結局国内では未だに喋ったことないからな。ちなみに、この件に関して俺より悩んでいた共同研究者の教員は、その後、なんか憑き物が落ちたかのようにその件に関しては興味を失ったようで、まあそれは実に健康的な話である。本郷って、3年くらい前に近くまで行ったきりで中見たことなくて、それ以外の俺の知識は全て『ラブひな』に由来するものなので、もの凄い幸せスポットなイメージなんですけど、それが今回のでどのくらい塗り替えられてトラウマになるのやらですね。もうだめだ感よぎる。
 しかし問題は、そのこないだ出した論文がちょう短いことなんだよね。セミナーって大体1時間くらい喋らせてもらえるんだけど、この論文、そのまま音読しても30分くらいで終わるし。前提知識を喋ろうにも、元となった計算をやった前の論文については、その共同研究者の教員が、去年この本郷の大学でかなり詳しく説明したから、そこを喋っても仕方ない。そもそもこの論文、やった計算だけを切り取ってみると実に自明である。なんか、それがずっと気になってて、実際、こないだの高知での学会に申し込まなかったのは、持ち時間15分を使い切れる自信が無くて、まあ教員に相談したら「申し込むのも申し込まないのも、cmizunaくんのお好きなようにしたらいいよ」と解脱したかのような穏やかな笑顔で言われて、「じゃあ申し込まないってことで」ってなったからだし。そんなこと言われて、この俺が申し込むわけがなかろう。まあ兎に角、問題はどう時間を埋めるかの1点なわけね。
 そんでその後、学会でたまたま会った先方の大学の同級生に訊いたところ、なにやらpptで発表資料を作らなくても板書でいいと。なるほど、それだと、黒板に式を書く時間があるから、もしかしたら1時間埋まるかもしれん。そう思って、学会後くらいから、何を喋りたいかを書き出してみることにしました。
 気が付いたら、pptで発表資料が出来ている。というか、表紙のロゴを弄るのが、同人の表紙を作ってる時みたいで楽しくなっちゃったのだ。それで、大体喋りたいことも英語でまとめて原稿にする。それで、こないだもちょっと言った、後輩1人に向けて発表練習をしてちょっと直してみたところで、大体埋まった時間は40分くらい。その後、1人で発表練習を続けているうちに、ちょっと小慣れてきて、だんだん40分を切るようになってきた。ヤバいと思って、これ、いつものあのパターンだ。

当日になってこれですからね。当日の昼前に新幹線に乗ってからも、ぼそぼそiPhoneで発表資料を動かしながら原稿を読んで練習して、まあ出張先の大学に着く。時間になる。当たり前だけど、一方的に俺が知ってるような歴々の先生方が集っている。えっと、今回の仕事はAGT対応っていう、違う次元の理論同士の対応を見るもので、そのAGTっていうのは発見した3人の学者の頭文字を1つずつとったものなんだけど(副業を咎められて事務所に解雇されたりしない)、そのT担当が目の前にいるからね。あと、俺らの論文を引用してくれてる人たちとか、こないだフランスに行った時のあの出張に関して大変世話になっている先生とか、もうしくじったら死ぬしかないのね。ただ、いると聞いていた外国人の姿が見えなくて、日本語で喋っていいことになりましてな。わおわお、と思って。印刷して持ってきたあの英語の原稿が全く意味ないものになってしまったよ。
 そっから先は、なんか、えらい気分よく喋らせてもらって。あとから思い出しても「あれ、あれもこれも、喋りたいと思ってたことを忘れずに順番通りに、きちんと説明しているな、マジかよ」ってなる。心配だった時間も、途中で出た質問に丁寧に答えてみたら、意外とちょうど1時間くらいに収まって。なんだこれ? と思いながら、新幹線で東京駅の地下で買った酒瓶を空けながら首をひねっています。どっからが夢だ。愛し合う2人がトーダイってところに行くとシアワセになれると言うが、俺みたいな自分大好きっ子は1人で行ってもそこそこ幸せになれるぞ。