S. M. L 『CARNIVAL』

 DL版。瀬戸なんとかさんのデビュー作。1章のクライムアドベンチャーに於ける、熱に浮かされたようなぼんやりした現実との乖離感を、いまいちしゃっきりしないこのライター独特の文体(大好き)がやっぱり特徴的で、プレイヤーの分身のはずなのに時折その手を離れて暴走するアンコントローラブルな主人公の焦燥感との対比が印象的。アンコントローラブルということを言えば、明らかにエロシーン水増しの為の捨てヒロインがいて、あとOP詐欺で有名なぬるぬる動くオープニングアニメとかもあって、エロゲとしての体裁を整えるものと、その中身との整合性のなさもその1つの作品としてのコントロール出来てなさ、まとまりのなさに含まれているのだな。
 だけど個人的に好きなのは2,3章。どういう触れ方をしてもネタバレになるからアレだけど、なんというか、主人公側からすれば、親友やメインヒロインの視点からずっと遡っての昔から「自分に味方がいた」ということが分かる、こんな目で見てくれていた(主人公にグリリバに似た声は付くし、なんというか、1人称から見るとうじうじした奴なんだけど、ヒロインの目から見ると飄々としたすっとぼけた奴で、ああ、ヒロインはこういう風に見てくれてたんだ、って思う)、その優しさに救われる。そして最後には、傷付いた少年としての主人公、傷付いた少年としての親友の武、傷付いた少年としての(もう1人の)木村学、傷付いた少女としてのヒロイン、優しさがようやく報われて、それは良かった。まあ、実際は取り返しのつかないことがいっぱい起こったあとにようやく、という現実との対比がこのゲームを鬱ゲーと呼ばせるものなんだろうけど、でもまあ、優しさってそんなもんじゃねえの。各バッドエンドも色々よし。噛ませヒロインだが渡会さんもとても良いぞ。

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