益川敏英 『いま、もう一つの素粒子論入門』

 2008年のノーベル賞受賞者の1人である著者が15年くらい前に『パリティ』に連載していたという、かなり薄めの場の理論の教科書。くりこみをほとんど無視して、実験の結果を時系列的に説明して標準模型に達する、あんまり見ないかもしれない設計。標準模型ってもう完成しているから、天下り的に与えてformalismの部分を厳密にやるみたいな本が多いわけで、まあ例えば九後さんの『ゲージ場の量子論』なんかはそこの「物理的状態とBRSコホモロジーを同一視しようね」なんかをあっさり説明しちゃうのが素敵なんですけど、まあやっぱり初学には少し厳しい、というか学部の頃に実験と絡めた物理ばっかやってるとちょっと、考え方がついていかない部分が、まあなきにしもあらずではないですか。そこをこの本は、まあボトムアップ的に、実験と絡めた話を積み上げていく、しかもびっくりするくらい計算はしないし、したとしてもその計算の示す実験で見える意味を噛み砕いて説明するので、まあ初学にはぴったりですかね。くりこみが場の理論の教科書に必要なのって、多分ラグランジアンの項の形を制限するためなので、asymptotic freedomさえ定性的に説明してしまえば、formalism無視して実験結果を説明するぶんには(RG flowの精度で数値合わせるとかでなければ)要らんのですよ。まあそういうわけで、俺はこの本を、B3で初めて場の理論の教科書読んでさっぱり分からんで泣いていたあの頃の俺に渡してあげたいよ。

いま、もう一つの素粒子論入門 (パリティブックス)

いま、もう一つの素粒子論入門 (パリティブックス)