TYPE-MOON 『魔法使いの夜』

 個人的には9年ぶりの型月。さすが10年前に『月姫』で「一枚絵CGは少なくていいから立ち絵の枚数で勝負だよね」でその後のエロゲ界の演出に多大な影響を与えた型月だけあって、今回も戦闘シーンの演出は隙なく燦めき動く動く。それがちゃんと10年分の進化をして、惜しみなく一枚絵で動かしまくり。特に今回、星空めておからラーニングしてきたかのようなモーラあふれるテキストが入ってたりして、「これは時間軸の演出も委ねていいな」っつって、珍しくテキストスピードを瞬間表示じゃなくデフォルトのスピードでやったくらい(多分7年前にやった『銀色』以来くらい)。
 本編は1本道、ボリュームは珍しく(あの時代に『Fate』で60時間で売り出して、その後のエロゲ界のボリュームに多大な影響を以下略)抑えめの20時間弱。ちゃんと書ききってるって感じがするキャラクターは実際青子くらい、そのコントラストとしての草十郎も書けてはいるけど。でもなんか、これまでの型月だったら、有珠ルートで草十郎に寄り添わせて草十郎の特異を炙り出してからの青子ルートのコントラスト(かその逆順)、くらいの親切さがあったような気がするんだけどなー。今回は設定厨としての奈須きのこもあんまりいなくて(っつうか『Fate』の世界観/魔術観をそのまま使ってる。まあ過去話だしな)、紅赤朱とか読ませてズッコケさせた勢いで設定の網に陥落させてたあの頃の勢いはどこ行ったんだー的な寂しさもあり。
 青子という、最低限書いておかなくちゃいけないキャラのことは書いてあるし、書いてある分は面白いし、なんつうか多分、これから『Fate』ばりにFDやら色んなメディアやらで色んな展開をする、その最初の下地として他のキャラ造形もかなり良いと思うけれど、まあ、ちょっと要らん分まで俺が期待しすぎたかもなー、という感じ。

魔法使いの夜 初回版

魔法使いの夜 初回版