ろーなんとか祭

 うちの大学の物理科全体で、研究室説明会みたいのがあって。内外の学部生を集めて、それぞれ興味ある研究室を自由に訪問して(メモ:この辺りに"自由"っぷりに関する面白いやつを入れる)貰うやつで、まあ毎年やってるんですけど。実際俺も、4回生の時にこれで今の俺の研究室を訪ねて、で雰囲気が気に入って進学を決めたなんて経緯があったので、それなりに学部生の呼び込みに関しては重要なはずなんですよ。まあ例年通り、パワポで研究生活とやってる物理の内容を説明する説明会を用意して、あとはいつもの「おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます」という泣いた赤鬼スタイルでうちの研究室は臨みました。ほんとにお菓子は美味しい(自慢)。
 まあ、当日の俺の、物理への勧誘に関するテンションは最悪なわけ。ちょうど前日から、共同研究者の教員が一緒にやってる研究に関して本腰を入れ始めて、一応3週間ぶん先に始めてたはずの俺に対して「追い越してまうでwww」とか言ってきて、「ほうら、やっぱり俺に出来ることなんか一個もなかっただろ?」って感じで、ちょっと立ち直りかけてた物理への心が完全に折れてるから。あとまあ、いま勧誘する後輩なんか3つも下で、そいつの研究が始まる頃には俺も卒業してるから、大して誰が入ってきても関係ないし。なんなら、物理は出来るけど日本語の通じない人より、物理は全く出来ないけど毎日夕食後に笛の音で僕の心を和ませてくれる、っていう人の方が、よっぽど後輩に欲しい。僕のいみじき笛をお舐めよ。
 お陰様をもちまして、説明会に大勢お越し頂きまして。午前と午後に一回ずつやったんですけど、それぞれ20か30人くらい来たのかなあ。普段セミナーをやる部屋がゆうに一杯になるくらい。まあそれも良し悪しで、俺がその4年前に来た時に「ここの研究室いーなー」って思ったのは、その説明会に5人くらいしか入ってなくて、ぼーっとしてるだけで先輩が話しかけてくれる感じだったわけで、それをなんか、今の俺がちゃんと相手しきれないのは申し訳ないなあっつって。俺は、もう一人の俺を救わなければならないのだ……。片翼の羽が疼く……。
 まあそれでも、説明会後の自由な歓談タイムに積極的に残れるタイプの人の質問に応じるわけ。(メモ:あ、俺、いまオムレツ食べたい)「理学部の方の研究室とここの研究室の違いをお尋ねになりたい方は私の右乳首を、院試の目安の合格ラインをお尋ねになりたい方は私の左乳首をそれぞれプッシュして下さい。また、学部生として燻っている自分の持て余した『ぼくはこんなにお勉強したんだぞ!』っていう自己顕示欲のモヤモヤを体よく吐き出したいだけの方は、そちらの白い壁に向かってどうぞ。それ以外の方はどうぞお口をお開きになって人間語をお喋りになってもよろしくてよ?」なんつってさ。その白い壁、院生になってからも使うから、使い終わったらさっさとどいてな。


 その説明会が終わったら、なんか物理教室全体が集まって、立食パーティみたいなのをやるわけ。これがさ、一人当たりの食べられるご飯の量が年々減ってってるんだよね。来てくれる学部生が増えてきてるってことなんだと思うけど。なんか、用意された寿司とかに群がる学部生と院生を見るのがほんとに嫌になっちゃって、乾杯直後に外に出てコンビニ行ってキャベツの千切りと麦チョコを買ってきて、それをひたすらモムモム一人で食ってるだけの立食パーティになりました。あのさあ、こういう懇談会って、食べ物を分け合うことで心理的障壁を外して仲良くなれる、みたいな心理学的効果を狙ったものなんでしょ? 知ってる知ってる。そういうのは知ってた上でこういうことやってるし、あと、そういう聞きかじったような雑学としての心理学うんちゃらみたいのを俺はあんまり信用してない。卑近さによって学問としての系統が軽視されることに、元研究者志望としては耐えられぬのじゃ。
 そんなことしてたら、落ち着いてきた頃に、うちとこの研究室のわりと若めのスタッフの人に、「cmizunaくんて、ほんと変わってるよね……」とか言われちゃって。まあ、今年になって学生の先輩がいなくなって俺がほんとに好き勝手にし始めたのがいい加減に目についたんだと思うけど。こないだの研究室飲み会でも食べ放題の店に行って、他の人がみんなステーキ食ってるとこで俺が開幕からティラミスばっか食ってるとこも見られたし。まあそれに「普通ですよ、普通に自分の好きなもの食ってるだけです」なんて答えたりしてるわけ。
「いやでも、この料理、美味しいのもあったよ」
「なんか、そういうの、頑張りたくないんですよ」
つうか、ご飯に関して金とか時間とか労力かけるの、すげえオッサンくさいことのような気がしてな。まあそしたら、競争意識とかそういうことを説かれるの。
「なんでもそう。勝ち取ることそのものが嬉しいわけ」
「わかんないっすねえ」
とか言ってさ。あ、と思って。気付いた。さては、俺に足りないのはそれだなあ。共同研究者に「追い越してまうでwww」って言われたら、悔しくなってもっと頑張ろうって思うべきなのだ。そういうのが足りないから、俺はいま、物理をやめるやめないだのという話になるのだ。ためになる話だなあ、参考になるなあ、願わくばこの話を、物理屋として院に入る前の年のこの説明会で聴けたら良かったなあ。というわけで、みんなも来年は積極的に色んな話を聞きに来たらいいよ。もう一人の俺に関しては、呼んでくれたら俺が探しに行くけど。