内田百輭 『戀文・戀日記』

 昭和の文筆家、内田百輭が、青年期に恋した少女、清子への恋を綴った日記と、実際に思いが通じてから結婚に至るまで、清子に送り続けた恋文を集めたもの。
 まずは恋日記の方。その清子の兄と百輭は親友で、毎日のように勉強を教わりに行ったりするんだけど、その時に言葉を交わしたうれしだの、帰りに玄関まで送りに来てくれたうれしだの、そんなことが延々と綴られている。まあ、些細なことで腹を立てたり不安になったり、喜んで「大学に合格して求婚しよう」ってなったりしてて、ああ、この、自分の見えてる世界が恋だけで埋められている感じは、ちょっと懐かしいなあ、羨ましいなあと思う。
 恋文の方は、結婚の際に一度相手方の家に断られて一悶着あったり、その後も学生のまま結婚していいのやらみたいな話があって、一筋縄ではなかなかいかない。それらの問題を、清子に言い聞かせるように、そして自分に言い聞かせるように、二人の人生についての問題として、情熱的に懇々と説き伏せていくような恋文が続く。あのねえ、後に作家として名を残すような人が書いた、激情だけに駆られて書いた文章だもの、読んでるだけで酔わされるよ。おすすめ。

恋文・恋日記

恋文・恋日記