イタリア10日目

 火曜日。授業は最終日。まあ朝起きたら、治ってるとまでは言わないまでも、普通に歩けるくらいにはなってるんだ。朝のうちに宿舎をチェックアウトして、荷物を預けてから授業に行く、くらいのことは出来る感じ。つうか、「ちゃんとこの人は我が研究所のスクールに参加したよ」みたいな証明書がこの日の授業後に配布されるので、この日に行かないともう色々台無しなんだけど。
 午前だけで授業は終わりで、そのあとはもう1人の日本人と飯を食って別れて。そっから俺は、空港の近くのホテルに移動しなくちゃいけないんだ。つうか、もう1泊宿舎をとれば良かったんだけど、色々ミスったよね。んでまあ、このホテルってのも微妙な位置にあるんだ。位置関係を道なりに直線で表すと、空港--ホテル-研究所-トリエステの街 って感じで、なんかね、もう普通の漁村の、高速道路脇にあるらしいってレベルのホテルなんだ。伝説? 日本にいる時に代理店を通じてとってもらったんだけど、その時もなんか「空港近くには2つのホテルがあります。1つは〜でこちらは簡単に予約が出来ます。もう1つ〜というのもあるようですが、当代理店では取引がないのでよくわかりません」みたいな話があって、調べてみたら改装時に名前を変えただけで両方同じホテル、みたいなレベルのうさんくささだよ。
 一応また、バスに乗ってその近くまで行こうとするんだけどさ。またバスが混んでるわけ。で、俺はまたスーツケースを持ってるから、また大荷物なわけ。やってらんねえ上に、今度はどこで降りればいいかもわからないわけじゃないですか。あのねえ、イタリアのバスって完全現地民用で、全然案内とか無くて、外の様子を見て「この辺で降りたい」って思ったらボタンを押して、すると次のバス停で停まる、みたいなもんだから、土地勘のないところでぼーっとしてたら、いつの間にか終点まで行っちゃうようなシステムなんだ。もうさ、携帯のGPS使ってgoogle earthを見続けるしかないよね。現地民でびっしりのバスの中、唯一立ってるアジア人が、なんか(風邪で)ふらふらしてる上に携帯から目を離さないでいるのね。しかもスーツケースに入りきらなかった季節外れのジャケット着込んでたら、びっくりするくらい汗かき始めて。普通に立ってるのに、地面にぽたぽた垂れるくらいの汗だよ。「気持ち悪い……。俺いま、気持ちが悪い人だ……」って思って、まあそれでも、目的地近くで降りれました。
 ホテルもさー、やっぱり「これ、ホテルなのか……?」って感じのとこだったけど、まあ辺りをうろうろしてから入ってみたら、中はまあ普通にホテルで。ビリヤード台とかあった。んでチェックインして、翌朝のタクシーを予約して、部屋入ってケーブルテレビを一通り見てから(『うる星やつら』とか『ダーティペア』とかやってたよ。現地語で)、ビデを試して、で、もう寝ちゃおうと思って。寝ました。まあ結構寝て、夜中の1時くらいかなー。腹減って起きまして。食うもの無いだろ、と思うでしょ? ところがどっこい、このホテルはチェーンで、その大本のHPを見ると、24時間営業のカフェーがある、って書いてあるんですよ。ふへへと思って。シャワー浴びてからカウンターに行ったら、なんつうのかな、誰もいないんだ。寝てる時にちょくちょく起きた時には、かなり団体さんっぽい声が聞こえてたのに。あれー? と思って色々覗いてたら、コンシェルジェが走り寄ってきて
「何用だ?」
とか言ってくるわけ。
「えっと……。食うもの、ない?」
「ない」
「は?」
「高速道路のとこにバールならあるけど、ここにはない」
またバールか! バールはもういいんだよ!
「なるほどね……。あー、そう……。あー……。そういや、部屋で有料の映画を観る時に必要な、PINコードとやらってのは、何かね?」
とか完全にお茶を濁してるわけ。映画とか言って、まあエロチャンネルだよね。「部屋番号だよ。最初に0を付けて」とか教えて貰って。まあ腹は減ってへろへろではいるものの、そんなことよりエロじゃ! 金髪エロじゃ! 週末からこっち、さんざ俺を睨んできたあの金髪女たちでエロ祭りじゃ! と思って。適当に手続きを進めていったら、えっと、「この番号にSMSを送れ」とかいうメールが来て。あれだよね、海外の携帯のメールではよく使うやつで、iPhoneが入ってきた時も一度ごちゃごちゃ言われたりもした、電話番号でメールが送れるやつ。うん、俺のガラケーでは無理だった。がっくーって膝から落ちて。
 しょうがないからもう一箱だけお土産のチョコレートを空けて、あとはもう論文を読みながら、テレビを付けたり消したりしながら朝の5時を待つばかりですよ。そう、翌朝5時出発なのね。