イタリア7日目

土曜日。午前で授業はおしまいね。
 150人近くいる参加者の中での俺以外の唯一の日本人と、あと現地のその研究所(正確にはその近くのちょっと違う研究所)にいる日本人が1人ってのが両方、元々うちの研究所にいたことのある人らで、特に片方は半年前までいたので顔知ってるし、もう片方も年明けだったかにセミナーに来てたので、一方的にではあるものの俺は2人とも知ってたのね。ちなみに関係ないけど2人ともブロガー。俺もブログやめてないから3人の日本人はみんなブロガー。まあそんなわけで、土曜の昼はその3人で宿舎近くのレストランでパエリアだか食って。解散したのが15時くらいだったんだけど。そっから、ちょっとトリエステの街に出てみようと思って。
 あの、トリエステっていうそんなに大きくはない観光都市が近くにあって、そっから少し、10kmくらいかな、離れた山の中に研究所があるんだ。で、普段は研究所の中に食堂があってそこで適当に食えばいいんだけど、土曜日の夕飯と日曜の昼飯は食堂が休みだから自分で調達しないといけないってんで、それは適当にバスに乗ってトリエステまで出て、レストランなりスーパーなりに行かなくちゃいけないの。トリエステねー、そこそこ人いっぱいいたけど、街自体は港町で、かなり狭いところに密集してたんだよねー。『地球の歩き方』なんかに市街地として載ってる部分は、せいぜい2km四方とかなんだけど、そん中に結構色々観光名所なりホテルなりはある、みたいな感じ。そこまで研究所からバスで10分くらい。
 一度部屋に戻ったりとかしたから、街に着いたのが16時過ぎくらいだったんだけど、この日は暑くてなー。地図とか見ながら、とりあえずで街を北から南まで2往復くらいしたと思うんだ。なんとなく街の感じは掴めたけど、まあ疲れる。で、だな。最初に行きたいところとして(まあ普通の観光地は大概締まってる時間だしな)、お土産屋さんがあって。あのねえ、言っちゃなんだけどそんな大きくない都市で、土産屋がどこにあるのかなんてのも、もう日本語でなんか調べはつかないわけ。それが、事前にネットでごちゃごちゃ調べてたら1件だけ見つかって。殆ど情報がない中、唯一詳しく英語ソースで見つかったのは、丁度俺がイタリアで滞在している物理学の研究所が出してる「うちの研究所に居る間はこんなとこに寄ってみてもいいかもね」的な観光情報なのね。その観光情報も、普通にしてたら見つからない中を強引にググった先で見つけたやつで、普通に研究所から「ビザの話とか、来る前にこれ読んどいてね」とか言われるようなページからは全然辿り着けないようなとこにpdfであるようなやつなんだけど。もう、大丈夫なのか……? とは思うわな。しかも、その観光情報には「なんと! ここのお土産屋さんは、うちの研究所のバッジ(滞在中は付けてろっつって貰える。ポケモンのジムバッジ的なもの)を見せると1割引になるよ!」とか書いてあんの。うさんくせえ……。うさんくせえことこの上ない……。
 とりあえず地図を見ながらそのお土産屋さんに行ってみたんだ。思ってたよりデカい店なんだ。そもそも周りが、かなり栄えてる観光地風味のところで、あたりはブランドの店(イタリアだぜ)とかバール(軒先に席を出して各種の飲み物を出すとこ。やたらめったらどこにでもある。これを気軽に使えるかどうかで多分、イタリア滞在の難易度が相当変わる。俺は使えなかったからその後大変なことになるよ)とかで、相当賑わってるところにあったんだ。そのお土産屋さんも、周りと負けず劣らずって感じ。入って、店の入口側半分くらいは、ガラスのショーケースがいっぱいあって、そん中に、クソみたいに趣味の悪いアクセサリーやらお土産類やらと、あと何か知らんけど、美少女フィギュアがいっぱいあった。フィギュアな、日本みたいにアニメとかの元ネタがあるやつじゃなくて、わりとほらヨーロッパに受けてるらしいじゃん、アート寄りのやつ。まあ俺にしてみたらアートとかよくわかんねえし、そういうの『ノーブランド魔法少女』としてしか見れないけどな。アクセサリーの方はなー、シルバー系のものがギラギラ光ってた。そういうのではないとおもうのだが。入る店、間違えたか……? と思って。で、イタリアって対面販売、店員がマンツーマンで付いて相談しながら物を買うってのが基本なので、俺、このショーケース部分のところで引き返さないと面倒なことになると思って。1回外に出て、それで街をとりあえず一回りするんだね。4kmくらい? 健脚だな!
 まあその間によく考えてみるわけ。こうやって見渡しても、ああいう感じのお土産屋さんは見当たらないし、あと一応(pdfでこそっと)国際研究所が推してるってことは英語が通じるはずだろ、そういうとこってもう完全見当たらないし、あそこに行かないとしょうがねえんじゃないかと思って。意を決して入ってみたわけ。はい来ましたよ対面販売。おばあさんに近いかな、ってくらいの年齢の店員さん。
「Buon giorno.」
「ぼんじょるの。あーんど、あいわんと、あー、あー、さむしんぐめいどおぶ……ぐらす?」
「は?」
「さむしんぐめいどふろーむ、う゛ぇねしあんぐらす」
「いんぐりっしゅ?」
「やー」
って言ったら、そのおばさん、店の奥の方で鎮座してるおじいさんのほうに連れて行って「英語喋るんだったらこのオッサン通して」的なことを言うわけ。えー……英語通じないの……? で、また俺が「さむしんぐめいどふろーむ、う゛ぃーにしあんぐらす」「さむしんぐって何。指輪とかネックレスとか」「ネックレス、かな?」とか言ったら、そのおじいさんがおばあさんの方にイタリア語で通訳するわけ。で、そのおばあさんが棚からネックレスを出すんだけど、まあこれが相も変わらず趣味が悪いわけ。なんつうのかな、熱帯付近の国で売ってたらアリかなっていう、まあ一言で言うと「部族長?」って感じの、ゴッツゴツしたやつなんだ。そういうのが次々と出てくるものの、俺としては首をかしげて「のー」とか言うしかないわけ。向こうを痺れを切らして「どんなのよ」とかいう目で見てくるから
「すもーらー、わん?」
とか言ってみるんだけど、「英語を喋るんやったらあっちだ!」っつっておじいさんの方を指すわけ。えー……smallも通じないの……。しょうがないからおじいさんの方に行って、「なんかもうちょい、ペンダント的なものねえの?」と訊いてみるわけ。ちなみにこの時点で、ペンダントって言葉はど忘れしてるから、ジェスチャーでどうにかしてるよ。そしたら「おう、チェーンは何がええ、金やら銀やらあっけど」「銀、かな」そんなことより俺はジェスチャーでペンダントが通じたことにびっくりしているよ。まあそれでおばあさんの方に伝えられて、「じゃあこの辺とかどうー?」って感じに見せられた中から3つ選んで適当に買いました。まあ途中までは、意味の分からない話の通じないアジア人死ねみたいな目で見られてたけど、まあ最終的にはどうにかなりますね。
 まあ辺りは薄暗くなってきてるわけ。するとなんか、続々と街の中に人が出てくる。その、さっきも言ったバールみたいなところが満席になるような勢いで、人が座って喋っているの。そんな中、俺はどうにかして飯を確保しないといけないから。また街の中をうろうろするわけ。これ、宿舎に戻ってから携帯の万歩計見たら、この日だけで15kmくらい歩いてますからね。で、見つけたのがCo-opって書いてあるスーパー。まあとりあえず食べ物はともかく、日本へのお土産にワインとか買うかなーって見てみたら、まあやっすいワインしかねえんだな。とりあえず地元のっぽいやつ2本くらい選んでたら、近くにいた店員に呼び止められて。どうやら閉店時間なんだよ。しょうがないからその安ワインだけレジを通して店を出るわな。2本で500円もしてないの。もう……。それでいい加減疲れたから宿舎までバスで帰りました。バスに乗ったすぐあと、駅横に、まだやってるスーパーを見つけて「うわあ……」って思いました。結局宿舎の自動販売機にあるチョコレートで過ごしたはず。