樋口一葉 『にごりえ・たけくらべ』

 雅俗折衷体で流麗に書かれた短編8つ。実際に吉原近くに住んだことのある経験を生かした、いま普通に読むと脚注無しでは筋も追えないほどの吉原特有の文化、ローカリティを書ききったことで評される『たけくらべ』を始めとして、貧窮などの影響をもろに受ける女性を主人公に据えた悲劇が多い。悲劇と言っても直接誰が死ぬ死なないとかではなく、女性らが時折ふと語る夢物語は美しいし、またむしろ『大つごもり』とか結末自体は童話みたいな作為性で一瞬の光明が見えているようにも思えるのだけれど、実際に主人公の女性をその身分に落とした運命的構図はどうにもできていなくて、まあ他の作品含めて、その運命という言葉に逃がさなくちゃいけないほどに女性らが置かれている環境はただただ重い。

にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)

にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)