この坂道をのぼる度に。

えー、何度もこの話をしてますが。今度の京大院試で筆記を合格すると面接があって、そこで各人が興味を持った問題についてなんでもいいから喋る、というのが予め決まっているのです。まあ筆記が受かってしまえばある程度はこっちのもの、面接で見られるのはコミュニケーション能力だよ、突然「ボク素粒子見えるんですよほら今だってあっちからこっちから話しかけてくるるくるくる! 鳥の血管が足りないと! 今夏は冷夏でございましたから! 赤が! 赤が紅に茜に緋に朱に蘇芳(#9e3d3f)に焦げたから!」とか言い出さない限りは大丈夫でしょう、とも言われますが、勿論準備はするに越したことはないわけですよ。で、実験屋だと去年までやってた学生実験の話をすりゃいいわけですが、理論志望、特に人気の素論志望がそれでいいのかというと微妙なところなわけですねえ。いやまあ大して期待されてるわけでもないし、なんでもいいんでしょうが。で、俺が選んだのがバネ振り子の話だよ、というところまでが前回までのあらすじです。これもう3回くらい説明したよね。一見様に優しいブログでありたい。ちなみにバネ振り子のどういう話をするかはこの辺この辺に簡単な説明がございます。


で、このバネ振り子がどういう意味を持つかという話で。単に「下に引っ張ったら横にも振れてふっしぎー」でもいいんですけど、そもそもこのバネ振り子の模型ってのは5年前、俺がまだ北海道で寒さのあまり猫耳が生えたまま高校に通っていた時分、機会があって見学しに行った、兵庫の山奥にある粒子加速器施設SPring-8って所の展示室にこのバネ振り子があったのを「ふっしぎー」と思って当時の高校で実験し始めたのが最初の最初、じゃあその加速器の展示室に何故それがあるかというと、これが振動モードの共鳴の話で粒子を加速した時にある波長に合っちゃうと違うモードにエネルギーが供給されて効率が悪くなる、というののモデルとして、だったと思うんですけど、なんたって5年前のまだ物心つきたてほやほや、うすらぼんやり星のうすらぼんやり村のうすらぼんやり村長だった頃の俺の記憶なんかあやふやなわけですよ。でもちょっとでも素論に絡む話なら面接で触れたいというのもあるし、かといって曖昧なところがあったら面接官とか超嬉しそうにそこ突っ込んでくるじゃん。好きな子との共通の話題を探す中学生かってくらいに。そういうのは中3の頃にTSUTAYAに通った記憶を思い出すからやめて下さい。まあだからこの辺あやふやにしておいちゃならねえな、院試の面接ということは曲がりなりにもこの問題に俺の人生を懸けるわけだし、ついてはもう一度あの展示室から始めないかと。あの場所からもう一度、僕達はやり直すんだ。


でまたこのSPring-8、上述した通り兵庫の山奥ですから、京都から日帰りで行けないこともないんですよ。この行けないこともないってのが微妙で、「片道何時間かかければ」行けないこともないのね。で、そもそも面接の前に聳える筆記試験ってのは31日だっけ、そこでありますから、正直この時期にその片道何時間かけて一個のおもちゃ見に行くのはしんどい。それよりは剛体の復習したい。行きたくねえなあなんて言いながら京都駅に行き、行きたくねえなあなんて言いながら姫路で乗り換えて、行きたくねえなあなんて言いながら相生で電車を降り、行きたくねえなあなんて言いながらSPring-8行きのバスを待つわけです。ちなみにこのバスのバス会社が神姫バスって言うのを知って、バスの待ち時間にその名前だけで何通りか妄想が出来上がりはしましたけど。バスマニアになるためにはこういうのをきっかけに羽化するんですか?


まあその山奥ですよね、昼過ぎにのこのこそこまで行くなんて人は結構珍しいみたいで。SPring-8播磨科学公園都市ってのの一部としてあるんだけど、その播磨科学公園都市ってのに入った辺りからもうバスに乗ってる乗客は俺一人なわけ。途中からも誰も乗ってこないし。この科学公園都市なんつうのも、土地が安い山奥を最近切り開いて作ったいかにもな人工都市で、それが企業が持ってる土地ばっかだったりするから平日の昼間に全然歩いている人とかもいないし、あと最初はお洒落だったんだろうけどちょっと色んなところが老朽化し始めてる感じ、あのなんかね、1mくらいの球体の表面に植物を敷き詰めるかして、恐らく最初は緑の丸い幾何的な近未来的なオブジェだったんだろうなあ、というのが街のわりと至る所に散見されるんだけど、それもなんか朽ち果て気味で、中の丸いオブジェのプラスチック部分が見えてたりするんだ。恐いよそんなの。見知らぬ近未来的人工都市がちょっと古くなってて人影も薄い中を乗客自分一人のバスでどんどん奥の方へ奥の方へと連れてかれんだよ。どう見てもこれオーバーテクノロジーで人類滅亡済みじゃん。まあ最終的には、SPring-8の手前くらいにあったリハビリ施設で、職員とおじいちゃんが「交代でそれぞれ自分の足下に向かって楽しそうに思いっきり打ち付ける」というルールのバドミントンをやってるのを見つけて、ああこれは滅亡前に残したホログラムとかじゃなくて生きてる生身の人間だ、と思って安心しましたけど。だってあんなシュールなのを記録として残すようなユーモアセンスがあれば人類って滅びない。


ここまでで家出てから5時間かかってますわ。院試まで残り1週間無い人が5時間をかけてようやくですよ。いつも鞄に入ってるのに電池がないことでお馴染みのデジカメも今日は珍しく充電済みですしね。いろいろ結構気合い入ってる。まあそんなこんなではいSPring-8着きました。いきなりふらふら一人で来て見学するって人もかなり珍しいんだろうね。正門前で受付する時も最初はかなり怪しまれその後はもっそい親切にしていただきですよ。展示室に行きました。まあもちろん他に見学者もいませんわな。がらんとしてて、唯一聞こえるのは断続的なピュン! ピュン! という音。これは何かというと、えー普通にしてても宇宙から宇宙線っていう粒子が頻度にして「掌あたりに1秒1つ」だったかくらいで飛んできてるわけで、それを可視化するために、宇宙線計測器があってそこを宇宙線が通ると音が出る仕組みにしてあるのね。だからそれは結構な頻度でピュンピュン言ってるけど、他は展示室も静かなものですよ。で、展示室の入口に置いてあったパンフレットに俺が求めてるバネ振り子の模型の写真があって、その場所の説明も俺の記憶と合致してるから、急いでそこに向かうんだけど、いやあ5年という時間は残酷だね、その模型撤去されてた。一応入口近くの事務室みたいなところにいたお姉さんに、「あの、このパンフの23番の模型って」「ああー今もうとっちゃったんですよー」虚ろな目で展示室を1周してから、模型があったはずのとこでがっくーーーって膝から落ちたね。聞こえてくるのは宇宙線のピュンピュンっつう音だけ。ほんと、このまま宇宙線がボクを刺し殺してくれればいいのにと思った。






写真はSPring-8前のバス停から。ちょっと虫とか閲覧注意なのか?