小林秀雄 『考えるヒント3』

短めの随筆を集めたシリーズの3つめ。このシリーズは文春文庫なので、こないだ読んだ新潮文庫の『Xへの手紙・私小説論』なんかとかぶってるのもあるんだけど。この巻は講演集で、そのぶん言葉が平易でとても読みやすい。一番古いものと一番新しいもので30年以上あるので、講演というものの性質もあってそれはちょっと読みづらいかも。著者の言いたいことがブレてるとかではなく、どうしても時代とかあるわけでね、一番古いの戦時中だし。講演の題はばらばらながら、俺が初読だったもので言えば、一貫する一つの筋として、反学問というか反科学的手法というか、そういうものが心に残ったかな。いや、否定的な言葉で象徴してしまったけど、なんというか、知識は知識として持っている著者の、個人的経験を重視する姿勢というか、そういうところ。科学にせよ学問ってのは基本的に、こういうルールでものを考えたらどうなるかな、というフレームワークからの演繹でしかないと俺は考えているので、著者のまず目の前の経験を単純に抽象化するのではなく全体として感ずる、観ずる姿勢というのにはわりと共感を覚えるところ。ちゃんとした科学はちゃんとしてるんですけどねえ。他にもう一つ印象に残るのは、ものを書くことに対する姿勢かな。

考えるヒント (3) (文春文庫)

考えるヒント (3) (文春文庫)